トランス式USB-DAC内蔵
      6DJ8+6DJ8差動ヘッドフォン・アンプ(ミニ・ワッター)


















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 音源をパソコンに特化した全段差動ヘッドフォン・アンプ&ミニワッターです(と言っても、単に他の入力端子や入力切り替えSWをつけるスペースがなかっただけのことですが…)。ベースにさせてもらったのは、評判の高いぺるけさんの「6DJ8全段差動プッシュプル・ミニワッター&ヘッドホンアンプ Ver.2」。半導体苦手人間の常で、初段も球に変更しました。
 同じく6DJ8の2段構成で初段と出力段の直結バージョン、出力段定電流バージョンも試作したのですが、安定度や音質の課題から最終的にオーソドックスなこの回路に落ち着きました。
 評判通り、繊細なのにスケールの大きな音を出してくれます。低域こそ、愛用しているFET式差動ヘッドホンアンプ(Ver.2)ほどの力強さはありませんが、音場の奥行きが深いのと、ピアニッシモ時のゾクッとするような静寂感は特筆ものだと感じました。それにしても、こんなちっこい球が15インチSPを朗々と鳴らすとは、ぺるけさんの慧眼に改めて脱帽です。


【アウトライン】 オーソドックスなCR結合2段増幅差動方式です。アンプ部の計算上の裸利得は初段約21倍、出力段約23倍。総合裸利得は21×23×1/41.83(出力トランス巻き線比)=11.55倍となり、出力トランスでの伝達ロスを10%としても10.4倍が見込めるので、7〜8dBの負帰還をかけても4倍以上の最終利得が確保できる計算です。

 USB-DACは拙作「ぺるけ式USB-DAC 〜ちょっとだけPower up Ver.〜」を解体して組み込みました。初段への最大出力は0.82Vですが、アンプ部の最終利得が4倍強あれば問題なくフルパワーを引き出せます。

 6DJ8とほぼ同規格の6922もそのまま差し替えられるようにしたのですが、悩ましいのが両者の最大プレート損失の微妙な表記違い。PHILPSのデータシートを見ると、6DJ8の場合は各ユニット1.8Wとなっており、、両ユニットとも1.8WまでならOKと解釈できます。これに対して6922は1.5Wと1.8Wが併記され、1.8Wの場合は両ユニット合わせた真空管1本あたりでは2Wと読めるくだりがあります。素直に解釈すれば、6922も片ユニット1.5Wまでなら1本で出力段を構成しても大丈夫のようですが、球の温度上昇を抑えるため、1本の片ユニットを初段に、もう一方を出力段に割り振って十分余裕を持たせることにしました。

 


【出力段】 動作条件は、ぺるけさんの6DJ8全段差動プッシュプル・ミニワッター&ヘッドホンアンプの設定をほぼそっくりいただきました。動作基点は135V10mA(プレート損失1.35W)。ロードラインからは8Ω負荷で0.75W程度の最大出力が見込めます。

 カソード抵抗910Ωの条件では、カソード電圧は18.2V位になり、ぺるけさんの直結方式と違ってグリッド電位をカソードより3V前後低くしてやるための自前のバイアス回路が必要です。5k半固定抵抗+10k半固定抵抗+2本の56kで構成されるバイアス電圧と左右バイアスの微調整回路がそれで、10k半固定抵抗によって17V〜中点15.6V〜14.4Vの範囲で上下2本のグリッド電位が変化します。また、5k半固定抵抗で10k半固定抵抗への供給電圧を17〜14Vの範囲で動かせます。910Ωに繋がる両カソードの4.7Ωはプレート電流のバランスをとる際の測定用です。


 【初段】 直流負荷43k、交流負荷38k、動作基点70V2mAの設定です。この辺りですと、Ep-Ip特性曲線がかなり寝ているため内部抵抗が約8kほどもあり、μも26〜27に下がりますので、もう少しプレート電流と負荷抵抗値を増やして利得アップと歪み減少を狙いたいところですが、B電源電圧が150Vちょいしかないのでバランス的にはこんなもんかな、という感じです。

 出力段をフルドライブするにはp−p値で7.5Vの初段出力が必要ですが、ロードラインからわかるように初段にとっては「昼寝してても余裕綽々」の状態です。

 定電流回路の2SK30Aは、発熱による電流変動を考慮してYクラス2個で計4mAにしていますが、GRクラス1個でもいいと思われます。

 初段下側の6DJ8グリッド〜アース間に入っている50Ω半固定抵抗は負帰還量調節用で、これを0Ωにすれば無帰還、50Ω時で約8dBの負帰還がかかります。


 【電源部】 基本構成はぺるけさんの回路を拝借しています。6DJ8シングルミニワッター、差動ミニワッターの両方に利用できるよう電源トランスは春日無線に特注しました。KmB90FをベースにB電源巻き線に130Vタップを出し、ヒーター巻き線から14.5Vを削って浮いたVA容量をB電源の電流アップに回してます。お値段はKmb90Fより650円高いだけなので、トランスを2種類買うよりうんとリーズナブルです。

 リプルフィルターには2SK2545(ドレイン・ソース間電圧600V、許容損失40W)をシャーシに貼り付けて使ってますが、発熱具合からみて600V20Wクラスで十分かと。


【シャーシとトランス配置】 シャーシはノグチトランスの「お助けシャーシ S−35」(250×150×40mm、アルミ厚1.2mm)です。弁当箱ですが、Kmb90Fがすっぽり収まる電源トランス穴が既に開けられているのと、別売りの底蓋を合わせても2000円弱というお値段が魅力です。ただ、欠点は漏洩磁束の最も多い電源トランス長辺側が、出力トランスなど主要パーツが収まる部分と向き合う形に開けられているのでハムを拾いやすいこと。ぺるけさんが「真空管アンプの素」で詳しく紹介されていますように、電源トランスと出力トランスをどう配置するかでハムの量が極端に違ってきますのでここは要注意です。

 電源トランスの位置は動かせませんので、「見てくれ」も考慮した出力トランス(KA-14-54P)の配置は下のA〜Dが妥当なところですが、実測してみると予想以上の大差がつきました。(※写真はシャーシ加工後に撮り直したものです)

 A案  B案  C案  D案

 もちろん、圧倒的にハムの少ないA案を採用(と言うか、B案以下は論外でした!)。ポイントは各トランスの中軸線が一直線上に並ぶように配置することで、これが僅か5mmずれただけで、電源トランスに近い方の出力トランスはハムが一気に1mV近くまで増えます。実装に当たっては、出力トランスの位置が最適ポイントからずれないよう注意深くシャーシにねじ穴を開けた後、まず電源トランスを固定し、最後に出力トランスをトランスステーの小判形ねじ穴のゆとりを利用して前後、左右、斜めに動かしながらハムの最小点を見つけ固定します。


【ハラワタ】 見苦しいですが、こんな感じになりました。左上のコーナーがAKI.USB-DAC基盤、その隣にローパスフィルタとライントランスが載ったユニバーサル基盤、中央の壁際が出力段のバイアス回路とカソード抵抗などの10P端子台、真ん中の20P平ラグは左3分の1程がリプルフィルターと出力段バイアス電源部、残りは初段定電流回路や負帰還回路、マイナス電源です。このほか、写真では隠れて見えませんが、手前のシャーシ壁に沿って5PのL型ラグに電源SWとUSBバスパワーの各LED点灯回路を配置しています。

 真空管ソケット4個の上空に1.2mm径の銅単線で2連VRまでアース母線を張り、ノイズ防止のためこれに沿ってライントランスからの出力をシールド線で2連VRに送り込みました。アースポイントはVRから出たシールド線が最初に大きくカーブしている辺りの直下に設けています。

    


【CR類配置模式図】 20P平ラグ板と10P端子台のパーツ配置や結線は以下の様なものです。ご参考まで。






  ↑       ↑       ↑      

見づらいですが、空き端子がないので、真空管ソケットを8mmのM3ねじでシャーシに固定した後、ナットからはみ出たねじ山に絶縁スペーサーをねじ込み、その頭に卵ラグをナット止めしてCR類の中継点に。


模式図に登場しないR-ch初段のグリッド抵抗や発振防止抵抗はVR側に、ヘッドフォン使用時の分圧抵抗の片割れ(アース側)はヘッドフォンジャックに取り付けています。

【調整】 電源を入れる前に、出力段バイアス回路の5k(B)VRの抵抗値はほぼ0Ωに、10k(B)VRはほぼ中点に設定、初段カソードの100ΩVRもほぼ中点に、負帰還回路の50ΩVRは0Ω状態にしておきます。電源を入れて各部の電圧が予定値と大差ないのを確認したら、まず、定格オーバーの危険性がある出力段のDCバランスをとります。

 手順は @10k(B)VRの2番端子に+17V位が来ているのを確認Aカソードに入っている4.7Ωの両端電圧が上下2つのユニットでそろうように10kVRを左右に少しずつ回して調整B910Ωの両端電圧が18.2Vまで上がるよう5kVRの抵抗値を少しずつ増やすC両チャンネルともとりあえず終えたら、しばらく通電して動作が安定したころに改めて再調整する。

 再調整までの時間を利用して次は初段のDCバランスをとります。@プレート負荷の43kの両端電圧が上下両ユニットとも86V(電流2mA)になるよう、100ΩVRを回して調節Aしばらく通電後の出力段バランス調整に合わせてこちらも再調整する。

 歪率計があれば、歪みが最小になるよう最終微調整する。

 最後に50ΩVRの抵抗値を増やして正帰還していないことを確認、左右の出力均衡と好みの負帰還量を決める。


【基本特性】 アンプ部の測定結果です。出力トランスのロスが思ったより多かったことなどから裸利得が10倍を割ってしまったほかは、当初の予想通りと言っていい結果が得られました。

L−ch R−ch 備考
裸利得 9.85倍(19.87dB) 9.90倍(19.91dB)
最終利得 4.2倍(12.46dB) 左 同
負帰還量 7.41dB 7.45dB
最大出力 0.68W 0.7W 1kHz歪み5%
周波数特性 グラフ参照 左 同
歪み率 グラフ参照 左 同
チャンネル間クロストーク グラフ参照 左 同
ダンピング・ファクタ 3.1 3.2 ON−OFF法 1kHz0.125W時
残留雑音 0.07〜0.08mV 0.06〜0.07mV 聴感補正なし


<周波数特性>
 春日無線の出力トランスKA-14-54Pは評判通りなかなかの実力の持ち主で、低域、高域とも素直な減衰ぶりです。ただ、実用上は何の問題もないのですが、L−chの高域が模範解答的なダラ下がりなのに対し、R−chはクネクネのたくって「美しくない」です。あわててチェックしたトランス単体での計測結果も同じ傾向ですので、回路の問題ではなくてトランスの個体差の影響でした。ぺるけさんのご教示では、個体差の原因は巻き線間の容量のばらつきによるもののようですが、「探せばいくらでもあります」ということで、納得しました。

 100Hz  (上段がR-ch、下段がL-ch)   1kHz  10kHz 超高域くねくねによるリンギング

<歪率、クロストーク特性>
 歪みは100、1k、10kHzがほぼぴったり重なってなかなかいい感じに仕上がりました。球の初段が余裕たっぷりでふんばりがきくせいか、高出力帯での歪みの増え方が緩やかで、歪み5%のいわゆる無歪み最大出力は0.7Wにまで達しています。残留雑音レベルの低さからみて、微少出力帯の歪率はもっと下がってもいいはずですが、相当くたびれた歪率計のノイズがかぶさって歪みの底が実体より浅く見えているのかな、と思います。

 チャンネル間クロストークは、10kHzを越えたあたりからR→Lの漏れがやや目立つようになります。左右chのパーツや配線のクロス・接近は極力避けたつもりですが、まだまだ検討の余地がありそうです。とはいえ、最低でも−66dB(2000分の1)を確保できており、いつものごとく「まあいいか」で済ませてます。





【その他】 ●回路図に書き忘れてましたが、電源SW横のLEDはUSBバスパワー認識用です。AKI.DACキットのC14(1000μ10V)の両端から±DCを取り出し、820Ω(1/4W)を介してぺるけさん頒布のPG3889Sを点灯させています。

 ●小物の大部分は手持ちのパーツを使ったので、写真には回路図記載より定格の大きなもの(回路図100μ250V→写真では100μ350V、75Ω1/4W→75Ω1/2Wなど)も写っていますが、もし参考にされる場合は回路図の値で十分です。

 ●特注電源トランスのサイズはKmB90Fと同一で、シャーシの四角い底穴は加工しなくていいですが、4本のボルト穴を少しやすりがけで変形させる必要があります。

 ●利用できるシャーシ高はギリギリ38mm。平ラグの下には出力トランスの取り付けボルト(M4×6mm)が4mmほど出っ張っているので、接触によるショート事故を防ぐためスペーサーは8〜10mmが必要ですが、そうなると本体高25mmの電解コンデンサ47μ250Vはラグ板に立てられなくなるので、図のように足を曲げて本体を沈み込ませるか、水平に取り付ける工夫が必要です。

 ●アース母線を先に張ると、半田ごてがつかえて真空管ソケットや10P端子台周りの配線が大変やりづらくなりますので、変則的ですがアース母線は最終段階で張ったほうがいいです。

 ●ヒーター電流以外は6DJ8とほぼ同規格の6922もそのままスッポリ差し替えられ、各特性も6DJ8とほぼ同じでした。(※DCバランスや負帰還量の調整だけはして下さいネ)


 ●冒頭でも触れましたが、一番気にいったのが音の奥行きの深さ。オケの演奏などでなかなか再現されにくい各楽器の前後関係の距離感がかなりいいところまで表現できている気がします。直熱3極管の音色に慣れてしまった駄耳にはいささか高域がタイト過ぎるようですが、キンキンした疲れる音ではないので個性として楽しんでます。

 ●最後になりましたが、6DJ8ミニワッターを世に出して下さったぺるけさんに、部品頒布も含め深く感謝致します。(2013.02.19)



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