ぺるけ式USB-DAC 〜600Ω:600Ωトランスで1.5V!  Ver.〜




 













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 ぺるけさんがAKI.DAC-U2704キットを使ったトランス式USB-DACを公開されて2年が過ぎましたが、未だに600Ω:10kΩなど3倍前後の高利得が稼げるタムラのライントランスは新品、中古品とも品薄で入手難が続いてます。600Ω:600Ωタイプならオークションに結構出回っていてわりと手に入れ易いんですが、常識的な使い方(150Ω:600Ω接続)では1V出力が関の山。そこで、利得の低いミニワッターに繋いでも余裕でフルパワーが引き出せるよう、600Ω:600Ωタイプで1.5V程度の出力を目指してみたのが今回のバージョンです。

 「AKI.DACと600Ω:600Ωからなんで1.5Vやねん? まさか・・・」。察しがつかれたカンのいい方も多いかと思いますが、否定的ニュアンスが込められたその「まさか」で対応します。巻き線が分割されているsplitタイプの600Ω:600Ωライントランスを使い、セオリーを無視して1次、2次ごちゃ混ぜに巻き線を組み合わせて巻き線比1:3のトランスに仕立てるという算段です。

 「電源トランスじゃあるまいし、そんな無神経なことしたら1.5Vは出せても、ただでさえ繊細で微妙な信号伝送系をグチャグチャにしてひどいことになるよ」とお叱りの声が聞こえてきそうですが、結論から言えば、まったく問題ありませんでした。それどころか、出てくる音はFET差動バッファUSB-DACをしのぐ高レベルで、実のところ、これほどとは予想していなかっただけに驚いてます。

 最終的に高周波ノイズ除去のためのローパスフィルタをRCタイプからLCタイプに変更しました。RCタイプでは、音質面でTK-20+LCフィルタVer.にちょっと差をつけられてしまったためで、こちらもLCタイプに変更したことによって僅差で再逆転し、常用機の座を保ってます。




【TD-1の結線と単体特性】  使ったのはタムラのライントランスTD-1。インピーダンスは600Ω(150Ωsplit):600Ω(150Ωsplit)、巻き線比1:1、周波数特性が30Hz〜20kHz(±0.2dB)、最大使用レベル13dBm――というのがメーカー公表の仕様で「調整卓ミクサー入力用」と銘打ってます。

 1次側、2次側ともインピーダンス150Ωの巻き線二つがある構造で、このうち本来の1次側の1回路(画像の1〜2端子)を入力用に充てます。残る1次側の1回路(3〜4)を2次側(5〜8)に加えると巻き線比が1:3となって、ロスを差し引いても2.6倍ほど昇圧できるので、AKI.DAC-U2704キットを直接繋げば1.7Vほど、ローパスフィルタを入れても1.5Vが確保できます。

 さて、(3〜4)巻き線と2次側巻き線の合体については下図のように二通りの接続方法があります。トランス単体での歪み率はどちらも一緒でしたが、周波数特性は超高域に極端な違いが出ました(下グラフ参照)。

 (3〜4)巻き線を2次側のお尻にくっつける接続Aは、150kHzまではトランスが高周波ノイズの遮断も兼ねるこのDACにとってはいい感じの減衰具合なんですが、なんと、そこから先には一気にエベレスト級のピークが!!

 これですっかりやる気をなくして「もう、やめ!」となっていたのですが、後日、別のトランスの測定ついでに(3〜4)巻き線を2次側の頭に持ってくる接続Bを試したところ、



こちらはど派手なピークが嘘のように消え失せ、きれいな減衰ぶりでした。余りにも違いが大きいので測定ミスを疑い、3個あるTD-1で両接続とも計り直してみましたが、いずれも同じ結果でした。

 もちろん接続Bの採用を決定、次は2次側負荷をいくらに設定するかです。

 インピーダンス比は150Ω:1.35kΩになりますが、1.3kΩ負荷では7kHzあたりから始まる減衰がちょっと大き過ぎます。負荷を2倍の2.7kΩにすれば40kHzまでほぼフラットにできるものの、


10kHzを中心に最大+0.18dBの膨らみができるのがちょっと気になります。(わかりやすいよう上下を引き伸ばしてデフォルメしたのが右グラフ

 2.2kΩか2.4kΩ負荷が一番良さげで、入力インピーダンス50kΩのアンプなら2.4kΩ設定でトータル約2.3kΩとほどよい塩梅に。
 (※いずれも送り出し側インピーダンス50Ωで計測)


 周波数特性の問題はクリアできたので、もうひとつの懸念、変則接続のせいでトランス単体での歪み率が悪化していないかどうかをチェックしてみました。

 下グラフからわかるように、変則接続でも本来の600Ω:600Ω接続の場合と歪み率はほとんど同一で、1.5V出力の場合、130Hz以下の低域の歪みは通常接続を下回っています。ぺるけさんの実測データと突き合わせても、10kHzあたりからの高域以外は同じ感じなので、特に問題はなさそうです。
 ※送り出し側インピーダンス50Ωで計測。当初のグラフは測定限界が0.012%の産業遺産的歪率計によるものだったため改訂しました。




 ※上グラフは、ぺるけさんの「私のデータ・ライブラリ」より承諾を得て転載。

 ※TD-1とTD-1Wは端子の形状が異なるだけで、中身は同一。


【回路】 変則接続でもデータ上は何の問題もなさそうなので、回路に組んでみます。AKI.DAC-U2704キットの改造部分は150Ω:600Ωバージョンと同じです。DC遮断用のC5、C6は後続の様子から470uFで十分と思ったのですが、これだと0dBFS時の6Hz辺りにC5、C6とトランスの共振と思われる小さなコブ(高さ1dB程度)ができるので1000uFで対応しました。

 ローパスフィルタは当初、27Ωと0.1μF(カットオフ周波数58.9kHz)の構成でしたが、超低域での共振や高周波ノイズをもう少し抑えるため、39Ωと0.1μF(カットオフ周波数40.8kHz)に手直ししました。このため0dBFS時の出力が若干低くなり、20kHzの周波数特性も当初より0.3dBほど落ちましたが、超低域の共振はほとんどなくなり、残留雑音や中・高域の歪みも相当減少しています。その後、ローパスフィルタのコンデンサ容量を0.1μFから0.08μF(カットオフ周波数51kHz)に変更しました。理由は【追補その3】を参照して下さい。

 パイロットランプ用LEDの電源は、AKI.DAC-U2704キットにC14電解コンデンサ(1000uF/10V)を取り付ける際、基盤の裏に出たコンデンサの足を(+)(-)とも切らずに曲げて残しておき、そこからコードを捩って取り出します。但し、この方式はUSBケーブルを経由してDC5Vが供給されていることは確認できますが、パソコンがこのDACを認識しているかどうかまではわかりませんので念のため。



 ハラワタです。黒コードがアースラインで、TD-1の端子側のネジ穴に卵ラグを取り付けてアースポイントとし、お尻側のネジでL字アングルに固定することによってケースにアースしてます。

 TD-1とL字アングルを絶縁し、画像左上の卵ラグに1点アースする手法も試してみましたが、ノイズレベルは全く同じなので、より単純な前者を採用しました。

 ※ローパスフィルタは27Ω+0.1uFのままの画像です





【基本特性】

出力電圧= 1.51V(0dB FS)
残留雑音= 0.091mV(帯域 1MHz)
          0.065mV(80kHz.LPF)

周波数特性= グラフ参照
歪み率特性= グラフ参照

 ※ 周波数特性はWaveGeneからの出力をミリボルト・メーターで、歪み率はWaveGeneからの出力を歪率計で計測

 周波数特性は20kHzで-0.64dB程度の減衰。6.5Hzに高さ0.15dBの共振の痕跡があります。
 歪み率は、TD-1単体での歪み傾向をほぼそのまま反映しています。
ぺるけさん作USB-DACの各種トランスデータと比較できるよう、同じく20kHzのLPFをくぐらせているのに、なぜ10kHzの歪みが予想外に
多いのか(といっても最小歪み0.011%と立派なもんですが・・・)、検討課題ではあります。その後、原因がわかりました。詳細は【追補その3】を参照して下さい。


 


【簡単なまとめなど】

 このトランス、これまで試してみたタムラのTpAsタイプ、TKタイプとはちょっと異なる印象です。TpAs、TKタイプともナチュラルで地味ながらとても味わい深い音色ですが、欲をいえばもうちょっとクリアさがあってもいいかな・・・と。

 これに対して、TD-1は繊細、パワフル、クリア、ナチュラル、定位といった様々な要素をまんべんなく兼ね備えていて総合的な再現力が非常に高いのが駄耳にもよくわかります。特にいいのは、音の彫りの深さと微細なニュアンスをしっかり拾っている点で、当HPのUSB-DAC作例の中では、FET差動バッファを含め完全に他を圧倒してしまいました。

 現行生産品のTD-1は新品が1個10030円(※ノグチトランス)もしますが、オークション相場はその5分の1前後なので、ピュアならぬプアなビルダーには大変ありがたい逸品です。 (2014.06.02)



 

【追補】

 公開後、ローパスフィルタの抵抗値を変更(27Ω→39Ω)しました。カットオフ周波数が下がり、残留雑音が0.1mVを割ったことで歪み率も良くなってますが、聴感上の変化は感じられませんでした。これに伴い、本文の一部を改訂するとともにデータの一部を取り直して図表改訂版として更新しました。改訂前の図表はこちら。  (2014.06.15)



【追補その2】

 このバージョンについて、ぺるけさんのサイトで下記の指摘があるのに気が付きました。

ご注意:SPLITタイプで4つの巻き線を持ったトランスの場合、そのうち1つを1次に使い、残った3つを直列にして2次にすれば巻き線比が1:3のトランスになりますがこの方法はおすすめしません。その理由は、1次巻き線を2次巻き線と混ぜて使うと高周波ノイズが素通しになる、位相特性が安定しない、悪くすると数kHzくらいから高域の減衰が始まってしまう・・・・といった困った現象が起きやすくなるからです。


 一般論としてはまさにその通りで、正論だと思います。

 まず、高周波ノイズについては、トランスによる減衰効果が落ちることは確実で、3.2mV前後あるAKI.DAC-U2704キットの残留ノイズをローパスフィルタなしでTD-1の1次側に入力すると、2次側には約0.37mVが現れます。つまり、トランスのノイズカット率は8分の1程度しかない訳です。しかし、カットオフ周波数50kHz前後のローパスフィルタをつけ、ぺるけさんの測定条件と同じ帯域80kHzで測定すると、ぺるけさんの作例同様の0.1mV程度まで下がりますから、10kHzの歪み率が想定より若干悪くなるものの、問題ないと判断しております。なお、最終的に聴感との兼ね合いでカットオフ周波数を40kHz強でチューニングしたため、帯域80kHzでの残留ノイズは0.065mVです。

 二つ目の「位相特性が安定しない」ですが、トランス単体での周波数特性や歪み率と合わせて測定していましたが、問題なしと判断して公開しませんでした。青線が普通の600Ω:600Ω接続の場合の位相変化、ピンク線が今回の接続方法の位相変化です。

 超高域での位相の遅れが通常接続より大きくなりますが、グチャグチャ乱れるわけでもなく、出力トランスに比べたらきれいな方だと思います。


 三つ目の「悪くすると数kHzくらいから高域の減衰が始まってしまう」ですが、これはこの接続方式の弱点です。対策としては、2次側の負荷抵抗を加減して変なピークや減衰が出ないよう注意しながら、手間ひまをかけて最もいい感じの高域特性を見つけ出すしかありません。


 すべてのsplitタイプ・ライントランスでこの手が通用するとは決して思いませんが、ことTD-1に関しては音も極めて上質ですので、当方としてはおすすめです。もし、他のライントランスで実験される場合は、必ず自身の手で納得するまでトランスのデータを実測したうえで見通しをたて、AKI.DAC-U2704キットに繋いだ後も根気よくチューニングしないと、「とんでもない状態」が起きていたとしても、耳だけではほとんど何もわからないものです。ぺるけさんの「ご注意」は、このあたりのことを危惧されてのことだろうと拝察しています。 (2014.07.03)



【追補その3】

 10kHzの歪みが予想よりかなり多くて最小歪み率が0.01%を割れない原因は何なのかわからず困っていたのですが、やっと突き止めることができました。

 問題のほとんどは、測定のため挿入した20kHzの多重帰還型アクティブ・ローパスフィルタのオペアンプの歪みでした。オペアンプを汎用タイプから低歪み・高精度タイプに差し替えたところ、最小歪み率が0.007%台に下がり(右グラフ参照)、変則的な巻き線の使い方をしていてもともと高周波ノイズが素通りしやすくなっているので、1kHzのレベルよりやや高めなのは妥当なところです。

 これに伴い、AKI.DAC-U2704キットとTD-1間に入れているローパスフィルタのコンデンサ容量を変更、高域での周波数特性の落ち込みを減らすことができました。


 こうしたトランスの使い方については批判もあるようですが、懸念材料があるからやめとこうではなく、問題点がクリアできるかどうかを実際に確かめてみる作業も自作を志すうえで大切な要素のひとつではなかろうか、と思います。 (2014.08.20)

 


【LCローパスフィルタに改訂】

 この10月に作ったTK-20+LCフィルタ版USB-DACの音質は、ごく僅かな違いながらもTD-1+RCフィルタ版を上回りました。同時にテストしたTK-20+RCフィルタ版とTD-1+RCフィルタ版では違いが分からなかったので、より好ましい音が生まれた原因はフィルタにあるようです。そこで、TD-1.Ver.もLCフィルタに変更しました。





 インダクタは太陽誘電の2.2mH(DCR18Ω)を並列にして1.1mHにしていますが、これはもうほぼ入手不可能なので1mH〜1.3mHでDCR10Ω前後のものなら使えると思います。

 高域の周波数特性チューニング用のVR1は500Ω(B)多回転型半固定抵抗。DAC出力にミリボルト・メーターなどを繋ぎ、抵抗値を変化させて、1kHz時の出力電圧を基準に十数kHz位までの周波数特性がほぼフラットになるよう調整します。インダクタやコンデンサ容量のばらつきに影響されますが、おおまかな適正値は290Ω前後になります。

 AKI.DAC-U2704キットはRCフィルタ版のものをそのまま使ってます。DC遮断用電解コンデンサC5、C6が1000uFだと数Hzの超低域に共振ピークが出やすくなるので、本当は1.5倍ほどに増量したいところですが、ケースのスペースに余裕がなくて断念しました。




LCフィルタ版 RCフィルタ版  LCフィルタ化によって最大出力が僅かながらアップ、超高域の残留雑音は半減しました。これにより、実際の使用環境での歪み率が大幅に改善されることになります。
最大出力(0dB.FS) 1.59V 1.51V
残留雑音(帯域制限1MHz) 0.041mV 0.091mV
  同  (帯域制限80kHz) 0.035mV 0.065mV
  同  (帯域制限20kHz) 0.033mV 0.033mV


 0dB.FS時の周波数特性は8.5Hz〜14kHz/±0.1dB、20kHzの落ちは-1.03dB、グラフからは読み取れませんが7.5kHz周辺に+0.04dBのかすかな膨らみがあります。


 0dB.FS時の5.5Hz〜7.3Hzの膨らみはAKI.DACキットとトランスとの共振によるもので、ケースに収容スペースがあればキットのC5、C6を千数百uF〜2200uFに増量するともう少しピークが抑えられます。


 左グラフは、USB-DACを真空管パワーアンプに接続するという現実の使用状態に近い条件下で歪み率を調べたものです。


 具体的にはWaveGeneから0dB.FSの正弦波をUSB-DACに出し、USB-DACの出力をオーディオ・アナライザ(80kHzローパスフィルタON)で測定しました。

 3kHz〜3.7kHzなどごく一部の帯域を除いて、LCフィルタ版のほうがRCフィルタ版よりもかなり低歪みになっています。


 「参考」とある細い赤線は、LCフィルタ版DAC出力を20kHz多重ローパスフィルタで受けて測定したもので、高周波ノイズをほぼ除去し切れている分、さらに低歪みかつ周波数が変化しても歪み率変動が少なくなっていますが、周波数特性は20kHzで-4dB以上落ちることになりますから、音楽を聴くうえではほとんど意味のないデータです。


 TK-20+LCフィルタ版と聴き比べてみたところ、低域と高域に関しては駄耳には違いがまったくわかりませんでした。しかし、中域はかなり差が出ます。TK-20の中域も優秀ですがやや「もっさり」したところがあるのに対し、TD-1は適度にシャープで透明感のある心地よい音色・・・という印象です。当初、TK-20が常用機になるのではと大いに期待していたのですが、結果的にはTD-1にはあと半歩及びませんでした。 (2014.11.09)



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