マルチ・メータは残留雑音をどこまで測れる?      〜あれこれ6機種実測データ〜

  









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 自作アンプの特性測定で最も悩ましいもののひとつが残留雑音レベルの信憑性。交流点火で無帰還の直熱3極管シングルみたいに平気で1mV前後のハムを出してくるやつは、割と簡単にほぼ正確な数値が得られます。しかし、軽く100μV(0.1mV)を切って来る傍熱真空管式の差動アンプとか、更にノイズレベルが下がる半導体アンプともなると、使用する機器によって表示される数値はてんでんばらばらの極みで、全くあてにならないものも多いです。
 普段、AC電圧測定に使っているデジタル・マルチメータ(以下DMMと略)やミリボルト・メーター(AC電子電圧計)はどの程度まで微弱AC電圧を測れるのか、あれこれ6機種のデータを取ってみました。


【正確なのはどれ?】


 「てんでんばらばら」の様子はこんな具合。左端の直熱3極管全段差動アンプの残留雑音を同じ条件下(入力短絡、8Ωダミー)で測ったものですが、14.3μVから153.1μVまで実に10倍以上の差があります。実態に近いのは右端の2台なので、中央の機種しか持ってなければ手にするのは「ぬか喜び」だけです。ちなみに最も雑音レベルの低く出るやつは、定番機として巷で人気の高い1/2 6桁機!

 ※ 使用機はいずれもメーカー校正や自家校正済み。

【テスト6機種とジェネレータ】

 テストには以下の機材を使用しました。

ADVANTEST
TR6845
HP3466A Agilent
34401A
HP3457A HP8903B LEADER
LMV-189AR
表示桁数 1/2 4桁 1/2 4桁 1/2 6桁 1/2 6桁 1/2 3桁
計測方式 デジタル デジタル デジタル デジタル デジタル アナログ
最小ACVレンジ 300mV 200mV 100mV 30mV 0.3mV 0.3mV
フルスケール確度仕様値 ±0.6% ±0.5% ±0.1% ±0.17% ±4% ±2%
フルスケール値実質確度 -0.16% -0.15% -0.0016% -0.004% 不明 不明


 微弱AC電圧測定に用いたのはDMM4機種に加え、オーディオ・アナライザ内蔵の電圧計(HP8903B)、アナログ方式の電子電圧計(LMV-189AR)で、DMMは意図して最小レンジの異なる機種を選んでます。

 フルスケール確度仕様値は各機種の最小ACVレンジに対するマニュアル記載値(校正後1年間確度)、フルスケール値実質確度は校正直後の最小ACVレンジの実際の確度で、「不明」とあるのは、0.3mVを正確に計測できる校正済み機材を持っていないためです。




 微弱電圧は手持ちのジェネレータの中で最も出力確度の高いマルチファンクション・シンセサイザHP8904Aで、両波整流の残留リプルを想定した120Hzを発生させました。

 出力可能な範囲は数μV〜7.071Vrms、1mV以下なら1μV単位で調節できますが、ピーク値表示方式なので、1.000mVとかいった端数のない実効値出力が作れないのが難点です。

 カタログ上の出力確度仕様値は±1%(多分、最大レンジのフルスケール値で)。正確なDMMがあれば±0.01%程度まで追い込んだ校正が可能ですが、残念ながら数十μVレベルでの確度がどの程度なのかは全くわかりません。
 

【実測データ】

     〈グラフの読み方〉

 横軸がジェネレータからの入力電圧、縦軸がDMMなどの表示電圧で、右上コーナーと左下コーナーを結ぶ斜めの黒直線(理想値)が入力電圧=表示電圧だった場合のラインです。


 各機種のラインが黒直線に近ければ近いほど読み取り値の正確さが増し、黒直線より右下に出れば読み取り値<実際値、逆に右上に出れば読み取り値>実際値となります。



 グラフのナマ数値はこちらにあります。



 ※ LMV-189AR(赤線)については、入力30μV以下では表示が65μVで水平になってしまいます。マニュアルには30μV以上から計測できるとありますが、当方の所有機(1995年製)は寄る年波のせいか、どうも内部ノイズのレベルがいささか高いようです。
 
 こちらは入力電圧に対してどの位の誤差があるかを示してます。

 






【寸評と実用性】

・Agilent34401A 1mV以上なら他機種より圧倒的に正確(誤差0.02%以下)だが、感度不足で0.5mVを境にガクンと急降下。マニュアルにも「測定できるのは1mVまで」と書かれている。
・HP3457A 設計は古いが、DMMでは珍しいAC30mVの低レンジを持つだけあって、0.1mV(100μV)以下でも踏ん張ってかなりまともな数値を出してくれる。
・HP3466A 次第にずれていくカーブは素直だが、5mV以下は苦しい。
・TR6845 最小レンジが300mVと大きいので、10mV以下は期待できない。
・LMV-189AR メーター式なので目視誤差は出るが、90μV以上ならかなり正確。誤差グラフが凸凹しているのはレンジ切替(10mV→3mV→1mV→0.3mV)に伴うもの。
・HP8903B 1/2 3桁表示のため精密な数値は望めないが、オーディオ用途に特化されているため能力は極めて優秀。10μVでも誤差が10%強と、半導体アンプの残留雑音測定にも十分使える。(※ この機種のみ80kHzの内蔵LPF使用)



 DMMでの残留雑音測定にどの程度の実用性があるのか。お馴染みの「ぺるけ式アンプ」を対象に、誤差が10%以内ならまあ許容範囲か(根拠はありません)ということで当てはめてみると、無惨にもHP3457A以外は全滅です(下表)。

 機種によって差はあるのでしょうが、ほぼ正確な値が期待できるのはレンジの数十〜百分の一程度までのよう。従って、最低でもAC30mV以下のレンジを備えている必要がありそうですが、寡聞にしてそうしたDMMはHP3457AやHP3458A(1/2 8桁、10mVレンジ、中古でも20万円以上!)、ADVANTESTのR6581位しか知りません。

ぺるけさんのアンプ 公開残留雑音 Agi34401A HP3457A HP3466A TR6845 LMV189AR HP8903B
6AH4GT全段差動PP 260μV〜470μV ×〜△ × ×
6N6Pシングルミニワッター 140μV〜270μV × × ×
71Aシングルミニワッター 220μV × × ×
6N6P全段差動ミニワッター 32μV〜88μV × ×〜△ × × ×〜△
TR式ミニワッターPart5 22μV × × × × ×

    (2016.12.07)


【残留雑音測定を可能にする裏技】

 結論として、一部の高性能DMM以外は正攻法での残留雑音測定は困難だということですが、ごく普通のDMMでもちょっとした手間とコスト(1000円程度)で可能になりますので、紹介しておきます。


  ※ 以下の部分は「AC Micro Volt Boosterの製作」へ引っ越しました。(2017.06.02)


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