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第2部 双曲的非ユークリッドの世界

Ch.7 平行角

      双曲的非ユークリッドの世界のいくつかの絵をみてきました。 ここでは、その根源であるところを見ていきます。

      Fig.1をご覧ください。
直線RSとその直線外の1点Pが与えられて、点Pを通る直線P'Sが描かれています。 双曲的非ユークリッドの世界では、直線P'Sは直線RSに平行です。 平行線は、平行方向(点Sの方)へ向かって遠くへ行くほど、たがいに近づいていきます。 2本の直線は、無限遠(円板の縁)で共有点Sをもっているように見えます。 赤い線と青い線は視覚の便のためのもので、直線RSに直交して双曲的等間隔に並べられています。 赤い点線はP'へ向かっているものです。

      角SPQが、ロバチェフスキーの名付けた
              平行角
と呼ばれているもので、一般に(パイ)と表されています。

      点Pを通る平行線をもう1本、PRと引けます。 つまり、与えられた直線RSに関して、1点Pを通る平行線が2本あるわけです。 ミステリーですね。 いや、そうではありません。 ともかく、双曲的非ユークリッドの世界に留まってください。

      Fig.2をご覧ください。
直線が直線として見れるクラインの円板です。 直線RSに平行な直線が、直線RS上にない一つの点Pを通って、TSとURの2本あります。 矢印がそれぞれの平行方向です。 ユークリッド幾何では、1本の直線に平行な直線は、すべて平行です。 直線RSに対して直線TSも直線URも平行ですが、直線TSとURは平行ではありません。 無限遠である円板の周上で、それらが共有点をもっていないからです。

      ロバチェフスキーが発見した平行角の公式

です。 簡単のために、eは自然対数の底とし、kは1としておきます。 (これらについては、あとで議論します。)       平行角/2より小ですから、右辺 は1より小です。 dは平行線間の双曲的距離PQです。

      さて、平行角の公式をよく見ると、角が距離dの関数になっているではありませんか! 先ずもって、つぎのルールを受け入れねばなりません。

角と距離は、そうごに依存する

同意なさいますか?
角と距離は、まったく異質のものですね。 それをイコール“=”で結びつけるとは、―――。 先駆者のいく人かは、平行角の公式に近づいていながら、これを在り得ないことだとして放棄してしまいました。 しかし、ロバチェフスキーらは、万有引力が距離と依存しあうのと似て、何ら不思議なことではないのだと考えたのです。

      平行角の公式はロバチェフスキーとJ.ボリヤイとガウスによって、それぞれ独立に1826年頃に発見されました。
それが、「平行線は交わるんだ」という仮定から、どのように導き出されのかという事については、とても興味をおぼえますね。 しかし、ここではそれを詮索するよりも、彼らが構築した、ユークリッド幾何にはない、距離と角の関係に注目しましよう。
(ロバチェフスキーらのしたことをどうしても辿りたい方は、寺坂秀孝の「19世紀の数学 幾何T,U」共立出版 などを見るとよいでしょう。)


      Fig.3の曲線をご覧ください。
これは、ふつうの平面の上で、X軸とY軸の方向だけに注目して、双曲的平行線を描いたものです。 黄色い基準直線RSをX軸に置き、双曲的平行線間の双曲的距離をそのままY軸方向にとっています。 赤い線分は双曲的長さで等間隔に立てたものです。 その長さをふつうの物差しで測れば、双曲的平行線間の距離が得られます。 指数曲線のように見えますが、そうではありません。 曲線上にふつうの分度器をあてれば、曲線上の各点での平行角が読み取れます。

      それにしても平行線は、無限遠で本当に共有点をもつのでしょうか? Fig.3の右の方を見れば、うなずける気もするのですが、みなさんは、いかがですか。

      Fig.4をご覧ください。 Fig.3と同様に描いたものです。 平行線PSに沿って共有点Sの方へ行くと、平行角がしだいに大きくなり、/2に近づいていきます。 同じ色のところの平行角は同じです。 これは、平行角だけに注目したとき、点Pから右の無限遠の方へ行くのと点Qへ降りて行くのが、同じ状況にあることを示しています。 無限へ行くのとゼロへいくのが同じ!


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