改訂版 45全段差動プッシュプルアンプ




 
 









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 ぺるけさんの著作『情熱の真空管アンプ』と首っ引きで8年前に完成させた「45全段差動・球3段構成プッシュプルアンプ 」は、改訂版のための部品取りに遭うまではちゃんと現役でした。スペック上の不満はあまり無かったのですが、シャーシ正面が幅370mmの横長構成のためラック上で場所をとるのが難点。間口200mm程度の縦長タイプなら、ミニワッタークラスをもう1台横に置けるスペースが確保できるので、縦長タイプに変更しました。

 せっかくシャーシを作り直すのですから、中身も全面的に見直しています。前作のスペックを保ちつつも回路は極力シンプルにしたつもりで、主な変更点は、@オール真空管での3段構成を半導体ドライブによる2段直結構成とするAフィラメント点火回路を4管独立させて残留雑音レベルを前作の半分以下の0.1mV台に下げる――の2点です。



【基本構成】
 予想以上にうまくいった71A全段差動プッシュプルアンプの回路を踏襲しました。JFETの初段でたっぷり300倍以上の増幅率を稼ぎ、耐圧の低いJFETだけでは45のドライブに必要な±60V程度の高出力信号電圧が得られないので、これをカスコード回路で高耐圧化して直結ドライブします。出力トランスはタンゴISOのFE-25-8(1次インピーダンス8kΩ)。前作のラックスOY15(同10kΩとして使用)より1次インピーダンスが低いぶん最大出力や歪みの面でやや不利ですが、評判の高いトランスを眠らせておくのはもったいないので・・・

 初段・ドライバ段が傍熱真空管だった前作では、立ち上がり時のドライバ管保護や各段B+電圧確保のため傍熱整流管や二重構造のB電源を採用していましたが、初段半導体化で両方とも必要がなくなり、B電源も大幅に簡素化できます。

 2段構成だと初段の出力インピーダンスがかなり高くなるので、どうしても無帰還状態での高域の帯域特性が前作よりやや落ちますが、反面、負帰還を安定的にかけられるので仕上がり状態での差はほとんどなくなるはず。また、残留雑音や歪みが減るなど総合的なスペックはかなり向上しつつ、アンプ全体の消費電力を20%程度抑えたエコ・アンプ≠ノなる見込みです。


【増幅部回路】 信号回路にコンデンサがないので、いたってシンプルです。無帰還状態での増幅率(裸利得、オープン・ループ・ゲイン)は24.1倍.。内訳は初段341倍、出力段2.41倍、出力トランス1/34.1倍となっています(いずれも実測値)。

 片ch4.5W程度(8Ω出力6V)を取り出すとして、これに必要な入力電圧は無帰還で250mV、負帰還量が6dBなら500mV、10dBなら790mV弱となります。
      


 ◆ 初段 ぺるけさんから頒布していただいた2SK117-BLの選別ペアを実測したものが右グラフ。2SK117のドレイン-ソース間電圧の絶対最大定格は50Vしかなく、単独では45をフルドライブするのに必要な最低±50V以上の高出力電圧を確保できないので2SC3503(VCEO300V)でカスコード化し、2SK117-BLのドレイン電圧を5Vに固定して対応します。(下グラフ)

 2SC3503のベース電圧は定電圧ダイオードで5.6Vに固定されているため、エミッタ電圧(=2SK117ドレイン電圧)もそれより約0.6V低い約5Vに固定されます。その状態で2SK117ゲートに信号が入力されると、ドレイン電流は信号振幅に応じて下グラフのピンク線上を上下し、2SC3503を介した47kΩ負荷抵抗の両端に数百倍に増幅された信号電圧を生じさせます。

 このままだと利得が約600倍と高すぎるので、バランス微調整も兼ねて両2SK117ソース間に入れた半固定抵抗VR3(100Ω)の電流帰還を利用して、利得を360倍弱に下げています。
      

 動作基点は85V2.3mAで、2SK117のバイアスは-0.3Vくらいになります。目一杯振ってもフルドライブにはギリギリの動作ですが、全体のバランスを考えると妥協できる範囲かなと。4.6mA定電流回路の2SK30A-Yを2個並列にしたのは、自己発熱による電流変動を少しでも抑えて出力段の動作を支配するグリッド電圧を安定化するためで、シャーシ内温度が上がりやすくなる底蓋もつけないことにします。




 ◆ 出力段 45の最大プレート損失は10Wですが、あまり無理をせず8Wくらいをめどに1次インピーダンス8kΩのOPTを負荷としたロードラインが右グラフ。動作基点はプレート電圧250V弱、プレート電流32mA強、バイアスは-50Vあたりになります。

 これを基にすると実際の電圧はグリッドが85Vですから、カソード(フィラメント)は50Vを加えた135V、プレートは135Vに約250Vを足して約385V。

 カソードの135Vは2管分のプレート電流65mAで発生させますので、必要なカソード抵抗値は約2.08kΩ。発熱量は両ch合わせて18W(!!)近くになるため、シャーシ上面に別室を設けて隔離しないとコンデンサをはじめみんなを灼熱地獄の不幸にさらします。

 V1とV2のDCバランスは両プレート間の電圧差でチェックします。そのためにはOPTのB-P1、B-P2の直流抵抗値(DCR)がそろっていないと具合が悪いですが、使用したFE-25-8の場合はB-P2の方がいずれも7.3Ω〜7.4Ω少なかったので、R14(7.5Ω)を入れて帳尻を合わせました。

 直熱管の泣きどころ、フィラメントハムをどう退治して静かなアンプに仕上げるか―これは比較的ハムレベルが低い2.5V管であってもなかなかめんどくさいです。目安としたのは、無帰還で残留雑音0.4mV以下。ここまで下げられたら、8dB程度の負帰還で傍熱管並みの0.1mV台に十分乗せられます。

 プッシュプルアンプの場合は普通、フィラメント用の2.5V巻き線をchごとに共用します。理由は、市販の電源トランスに2.5V巻き線がせいぜい2回路しかないためです。しかし、真空管ごとにハムが打ち消されるポイントは異なっているので、共用するとハム・バランサは「無いよりはまし」程度の効果しか期待できず、前作では50Ω巻線型VRで微調整した場合と、22Ω+22Ωの固定抵抗による簡易バランサとで残留雑音(無帰還で0.8mV前後)にほとんど差がなかったため、簡易型にした経緯があります。

 リプルを徹底的に(5mV以下程度)減らしたDC点火で、という手もありますが、とんでもない大仕掛けと猛烈な発熱を伴うので現実的ではありません。
 そこで、ヒータートランス(2.5V3A×2)を追加して4管を別々の巻き線で点火、それぞれにハム・バランサをつけて対応しました。使用する45の個体差にもよりますが、残留雑音は無帰還で0.32mV〜0.39mVでした。VR4(5)を流れるのはフィラメント系AC50mA+プレート電流32.5mA+微量の信号電流で、消費電力は0.08W弱のためごく普通の25回転0.5W型半固定タイプで間に合います。
 もちろん、50Ω2.5W型巻線VR(写真左)だけで済ましても結果は同じですが、高価だしスペースをとるし微調整がやりにくいし・・・とメリットはありません。


 4回路づくりの荒技 ヒータートランスを追加しなくても、ひとつのトランスから4回路を作り出す手はあります。

 大概のトランスは右図のように6.3V巻線の途中で2本のエナメル線を引き出して2.5V端子を設けているので、2.5V端子に来ている一方の線をニッパーでエイヤッ!と切り離して物理的に二つの巻き線に分割します。
 これで片方は0-2.5V、もう一方は0-3.8Vになりますが、0-3.8Vの方は負荷を考慮した巻き足しがないため、1.5Aを取り出すと電圧は3.5V前後に下がりますので、0.62〜0.68Ω(5W)を挿入して2.5Vに調整すればOK。
 端子から切り離した方の線は絶縁チューブを被せ、グラつかないようL字ラグなどで直近のシャーシに固定(勿論、絶縁してですよ!)、そこからフィラメントに配線します。



 【電源部回路】 必要な電圧・電流は

 B電源 出力段が390V65mA×2、初段が193V5.85mA×2、リプルフィルタと電圧安定化回路が2.5mAの計144.2mA
 A電源 2.5V1.5A×4
 C電源 -5V

 という計算ですので、電源トランスは前作と同じノグチトランスPMC170Mに同社のヒータートランスPM-H1を加えて乗り切ります。

    


 B電源は320V巻き線を両波整流するので、耐圧1300Vクラスのシリコン・ダイオードが必要ですが、今や1000V超のものはみんな製造中止みたいです。1000Vを2本直列にせざるを得ないか、と思いつつ部品箱をひっかき回していたら幸い、BY255(1300V3A)が出てきたのでこれを使いました。
 整流直後電圧は420V強あり、B+1に必要な390Vとの差は30V。これをリプルフィルタの2SK3700で一気に下げるとなると30V×0.144A=4.32Wもの発熱を伴いますので、その負担軽減と第1次のリプル除去を兼ねてR26(100Ω)で15Vほど落としてます。

 2SC3569(VCEO400V)は、AC100Vラインの電圧変動によって生じるB電圧の変動を極力抑えて安定化しようというもので、2SK3700のソース電圧が基準値(本機の場合390V)より上昇(降下)→2SC3569のベース電流増加(減少)→コレクタ電流の増加(減少)→R27(22k)を通じて得ている2SK3700のゲート電圧の降下(上昇)→ソース電圧の降下(上昇)・・・というサイクルで安定化させます。簡素な仕組みですが、整流直後電圧の変動に対してその5分の1程度にまで安定化できます。

 設定したい基準値は(エミッタに入れたZDの実際の発生電圧+約0.6V)×(R30+R31)÷R31で求められ、半固定抵抗VR6(10k)で可変できます(※約0.6Vはトランジスタのベース-エミッタ間電圧でほぼ一定、VR6の分割抵抗値はR30とR31に加算)。例えば、VR6の設定が中点だったとすると(80+0.6)×(220+5+51+5)÷(51+5)=404.4Vとなって少し高めなので、VRを回してR31側をあと3kΩ程増やしてやれば390Vに下がります。

 MOS-FETには常時400V超、150mA近くが流れますのでVDSS900V、ドレイン損失100Wクラスの大型品を使った方が精神的にも安心です。また、2SCパワートランジスタは耐圧の関係で必ずVCEO400Vタイプの中から、hFEがなるべく高いものを見繕って下さい(オークションで見つけた2SC3569は実測値65でした)。

 各フィラメント回路は実装して2.9V弱と電圧がかなり高めだったので、0.12Ω×2を挿入して2.5Vに調節しています。


シャーシ加工】 

 シャーシはノグチトランスのS-170(350×200×55mm、アルミ厚1.5mm)。電源トランスPMC170M用の取付穴が加工済みで便利ですが、このままだと電源トランスに近い方の出力トランスが空間距離で60mm離れていても、磁束の影響で0.2mVもの盛大なハムを拾ってしまいます(画像A)。電源トランスを90度回転させると0.04mVに激減(画像B)しますので、下図斜線部分をカットして取付穴を確保します。
   既存取付穴利用の場合   90度回転させた場合 


電源トランス横の30φ穴はブロック電解C用、トランスと並んでタカチのアルミケースMB-3を載せ、ヒータートランスとカソード抵抗の隔離部屋とします。

【平ラグ板と部品配置】

 増幅部はチャンネルごとに20P平ラグ板で、電源部はA電源を10P平ラグ、B電源を12P平ラグで構成します。このほか、隔離部屋の20Wカソード抵抗4本は8P平ラグに載せます。

 Lchの増幅部です(別に、こっちがRchでもかまわないんですが・・・)。負帰還回路の位相補正用1000pFはこの段階では未装着でいいのですが、画像左端から2列目端子のLED回路ジャンパー線をつけ忘れてます(トホホ・・・)。なお、配置図のクロス部分をわかりやすくするため結線の一部に色をつけていますが、画像の色とは必ずしも一致しませんので念のため。また、手持ち部品の都合で電源部も含め回路図よりW数の大きい抵抗や耐圧の高いコンデンサを使った部分もあります。


 こちらはRch用で、Lch用とは若干配置や結線が異なってます。これはシャーシに設置した時、画像上側の端子列がシャーシ側壁のすぐ近くにきて半田ごてが入りにくいので、あとで配線が必要な端子を全て手前側にもってくるようにしたためです。



 

 がA電源部平ラグで、25mmスペーサーを使って電源トランスの太鼓腹の上に橋を架ける形で配置します。

 は隔離部屋のカソード抵抗平ラグ。30mmスペーサーを立てて平ラグの上下の空間に抵抗を配置します。
 

 B電源部の2SK3700はシャーシに貼り付け、2SC3569には小型の放熱板を取り付けます。疑似マイナス電源を作る39Ωは周囲の電解コンデンサへの熱影響を避けるため平ラグの下面に配置します。ZD80Vと220μの位置が画像と配置図で逆になってますが、どちらでもかまいません。


【手順の概略】
 そろえたパーツをどういう順序で仕上げていくか。従わないとまず完成不可能な前後関係もなくはありませんが(シャーシ穴開け→塗装→部品取り付け)、それ以外については十人十色の世界ですので、以下はあくまでご参考程度です。


 @ まずは電源トランスとヒータートランスのAC100Vライン(画像白コード)を完成させます。

 Check ラインとシャーシ間に導通がないことを確認した上で電源ケーブルを差し込み、トランス各端子AC電圧が正常値の範囲にあるかどうか(無負荷なのでかなり高めに出ます)。

 A 部品組み付け済みのA電源部10P平ラグを25mmスペーサーで固定、トランスやフィラメントへの配線をします。

 Check 真空管を挿して、各管の1〜4ピン間電圧が2.5V±5%程度に収まっているかどうか。外れが大きい場合は0.12Ωの抵抗値を変えて調整します。
 Check シリコン・ダイオードの整流出力がDC460V位あるかどうか。
















 B B電源部12P平ラグを10mmスペーサーで固定、2SK3700をシャーシに貼り付けたあと、ダイオード出力〜100μ(□〜□)、100Ω、100μ〜22k(△〜△)、電源トランスC.T〜100μマイナス端子〜33μマイナス端子(○〜○〜○)を配線すればB電源回路が生きてきます。

 Check 無負荷でテストするとC8(47u/250V)が耐圧オーバーになるので、まず、B+2とマイナスライン(○印3カ所のどこか)間に15k/10W程度のダミー抵抗を繋ぎます。VR6を回し切って抵抗成分を全部R31(51k)側に移した後、おもむろに(あるいは恐る恐る)電源ON !

 □と○印間が460V前後、B+1と○間が400V前後、B+2と○間は185V前後、2SC3569ベースと○間が80V前後、VR6を中点へと回して行って徐々に電圧が上昇すれば「異常なし」です。

 もし10%以上も異なるようなら配線ミスや半田づけ不良、抵抗値の読み違えが疑われますので、直ちに電源を切って点検して下さい。




 C 入力回路とアース母線を構築します。入力端子のRCAジャック(シャーシ絶縁タイプ)と2連VRを結ぶシールド線は、ソース側との接続ケーブルの延長と考えて、シールド線の金属外被はVR側でのみアース母線に落とします。VRの2番ピンに取り付いている抵抗は左右chのR1(510k)、手前の宙ぶらりんの抵抗2個は2SK117ゲートに繋がる左右のR3(3.3k)です。

 アース母線は1.2mm径銅線で、VRの1番ピン2個を起点にクネクネとLchV2ソケットまで延ばし、終端は絶縁スペーサーで固定します。青丸部分で、卵ラグと黄銅スペーサーを介してシャーシにアースされます。

 Check RCAジャックは必ず、配線前にシャーシとの絶縁状態の確認が必要。RCAジャックのマイナス側になっているねじ切り部分とシャーシの取り付け穴の隙間はほとんどないので、穴がいびつだったりバリが残っていたりすると、締め付けの際にマイナス側とシャーシが接触する恐れがあります。接触するとアースループが出来て原因不明(と思ってしまう)ノイズに悩まされる可能性が十分にあります。
 


 D シャーシ上面の隔離部屋に8P平ラグで作ったカソード抵抗ユニットを取り付けます。取り付け用の30mmスペーサーは、ヒータートランスの止めねじと共にケースとシャーシを固定する役割も兼ねてます。

 半田ごてが入りにくいので、ハム・バランサや電源部Eに繋がる計3本のコードは事前に平ラグに半田づけしておきます。

  Check セメント抵抗が猛烈に発熱(計約18W)するので、配線がセメント抵抗と接触もしくはニア・ミスする恐れがないかどうか。

 ※ケース内の温度上昇には十分配慮して下さい。どの程度の通気口があれば十分なのか判断できる根拠は持ち合わせていませんので、勘だけを頼りにケースの全面にあちこち、10mm径の穴を計22個開けています。




 E 2枚の20P平ラグを取り付け、出力トランス1次側までの配線を終えます。この時点でスピーカー・ヘッドフォン出力と負帰還回路以外は全て生きたことになり、回路の実質的な最終チェックができます。

 Check 配線漏れや誤接続がないのを確認、初段ソース間のVR3をほぼ中点にし、真空管4本を全部挿したたうえで電源を入れてB電源ユニットのVR6でB+1出力を390Vに設定します。各部のDC電圧がほぼ右図に近い状態なら、直流的には「でけたー!!」です(電圧はいずれも対アース間)。

 どこか1カ所でも大きく外れていれば配線ミスもしくは半田づけ不良の可能性大ですので、泣く泣く再点検となります。 


 この段階でOPT2次側と8Ω出力端子間をミノ虫コードなどで仮結線、ダミー抵抗をつけて負帰還の際の位相関係、残留雑音、出力信号の状態などに問題がないかどうか簡単なチェックを入れておきます。







 F 前段階での簡易チェックで、左右ch間クロストークが50kHzあたりから急激に悪化(特にL→Rが)していることが判明、急遽、追加工事です。

 10Hzから20kHzまでは残留雑音レベル以下(-76.5dB)で全く問題ないんですが、更に周波数を上げていくと、L→Rが入力VRの中間位置では100kHzで最悪-32dBしかない悲惨な状態。入力VRを回してRch・2SK117ゲート〜VR間の回路インピーダンスが高くならざるを得なくなったところに、近くのLch出力段から輻射された高い周波数信号がドッと飛びついてました。

 追加工事(左画像)は、Rch側を走らせていたLchフィラメント配線(水色)を反対側に移すことで-10dBの改善、Lchソケットの取り付けねじを利用してアルミ板のシールドを立てることで-12dB、VRとRch2SK117ゲート間の入力ライン(赤)をLchソケットから遠ざけることで-8dB、VRのLR端子間に半田吸取線(幅3.5mm)を利用したシールドを瞬間接着剤で立ててその片側をアース母線に半田づけすることで-8dB・・・と、計-38dB分を稼ぎ、100kHzでの飛び付きをなんとか-70dB 

 レベルに押さえ込んだ次第。聴感上は10Hz〜40kHzくらいの帯域で-60dB(漏れ1000分の1)が確保されていれば十分なような気もしますが、全段差動で-60dBというのもちと情けないので、少し粘ってみました。

 G 最後に、出力トランス2次側―20P平ラグ間、スピーカー出力端子―20P平ラグ―ヘッドフォンジャック間の配線をすれば完成です。











【ハラワタ】

 中央の20P平ラグと右側OPT、シールド板があるUXソケット2個がLch、上側の20P平ラグがRchです。負帰還回路の位相補正コンデンサはまだくっついてません。




【調整】

 まず、手順Eで触れてますように、B+1出力電圧を390Vに設定します。これで理屈上は、45のプレート=約385V、カソード(フィラメント)=約135V、B+2=約193V、45グリッドと2SC3503コレクタ=約85V、2SC3503ベース=約5.6V、2SK117ドレイン=約5V、2SK117ソース=約0.3Vとなりますが、半導体の温度依存性の影響(特に定電流回路の2SK30A)や真空管の個体差、電源電圧の変動などで45グリッド・2SC3503コレクタ電圧とカソード電圧はかなりバラつきが出ます。

 グリッド・コレクタ適正電圧のめどは85V±5V程度。これを外れると出力段をフルドライブするのがしんどくなりますので、外れている場合はB電源部のR34(680Ω)を増減してB+2電圧を調整してやります。カソード電圧は85V±5Vに45のバイアス分45V〜55V程度を加えたものが目安です。

 次は、出力段のDCバランス。プレート電流のアンバランス→OPTの直流磁化→低域特性の劣化、となりますのでV1とV2のプレート間にDCVレンジにしたテスターを当て(どっちのプレートが+側でもかまいません)、初段2SK117ソース間に入っているVR3(100Ω)を回して表示される電圧がゼロに近づくようにします。コロコロ変動してゼロでとどまることはありませんので、±50mV〜100mV以下(0.17〜0.34mA以下)に追い込めば十分です。

 この後、スピーカー出力端子に8Ωダミー抵抗とミリボルト・メーターを繋ぎ、V1とV2のハム・バランサを回して残留雑音が最小になるポイントを探ります。

 左右chの利得合わせは、負帰還回路のVR2(1k)を回して負帰還量の差で微調整します。

 ここまでは、そこそこの精度のテスターが1台あればなんとかなります。しかし、位相補正用のコンデンサ(C1)の最適容量をどう決めるかについては、オーディオ用発振器、ミリボルト・メーター、オシロスコープに加え、かなりの根気が必要となります。本機は最終的に1000pFで手を打ちましたが、個別にみれば負帰還量の多寡や出力トランスの個体差、実装技術の練度などの影響で数百pF違ってくる場合の方が多いので、あくまで参考値程度と思って下さい。


【基本特性】

改訂版(半導体+真空管の2段構成) 前作(真空管のみの3段構成) 備考
裸利得 24.1倍(27.6dB) 16.02倍(24.1dB)
負帰還量 8.5dB 6dB
総合利得 9倍(19.1dB) 8倍(18.1dB)
最大出力 4.5W 5W  ※1kHz、歪率5%
周波数特性 10Hz〜132kHz 10Hz〜135kHz  ※0dB/-3dB、1W出力時
歪み率特性 0.18% 0.24%  ※1kHz、1W出力時
ch間クロストーク -76 〜 -71dB -68dB以上  ※0dB=1V
ダンピングファクタ 6.7 5.2  ※1kHz、ON-OFF法
残留雑音 0.15mV 0.4mV  ※聴感補正なし
  ※各項目の数値はいずれもR-ch分。 (総合利得以外の数値は左右ch間で若干の差あり)

 データ上は前作と似たり寄ったりですが、残留雑音が激減したせいなのか、出力トランスが違っているためなのか、はたまた電圧増幅部が半導体になったためなのか、全体の音の印象はかなり変わって「梅雨が明けた」という感じです。歪率5%の最大出力が前作より10%程落ちたのは、出力トランスの1次インピーダンスの違い(10kΩ→8kΩ)が大きいです。


 

周波数特性

 常用出力帯の1Wでみても、低域側の-3dBポイントは当方のボロい発振器の限界周波数(5Hz)以下、高域側は132kHzと、前作とほぼ一緒です。

 超高域が多少クネクネしているのは、180kHz、300kHz、400kHz超あたりにそれぞれ、ピークとまではいかない小テラスができているためで、メーカー公表の特性図(下グラフの上段)にも同じ特徴が出ていますから、この出力トランス由来のものです。
 ※いずれも上段が原形波、下段が再生波。10kHzにはわずかなリンギングが認められます。



歪み率特性 各帯域の差はほとんど測定誤差の範囲内程度と言っていいほどしかなく、出力トランスFE-25-8の優秀さがうかがえます。このOPTに限っては、1kHzのみ計測しておけばこと足りる、ってな感じです。

 3W以下の領域では、旧バージョンよりおしなべて20%前後歪みが減ってますが、これは主に負帰還量が多いためでしょう。また、0.2W辺りから下の改善が一層著しいのは明らかにフィラメント・ハムの減少に伴うものです。




    旧バージョン


左右ch間クロストーク特性

 L→R、R→Lとも40kHz〜50kHzあたりまでは残留雑音のレベル(破線、-76.5dB)以下で、文句なしに優秀です。

 超高域は完全フラットとはいきませんでしたが、当初は極端に悪かったL→Rが、あれこれ手当てしているうちにR→Lを凌いでしまいました。いずれにしてもこの程度(漏れ3000分の1以下)の悪化、気分的には面白くなくとも、何らかの悪影響を及ぼすレベルではありませんので、これをもって仕上がりとします。










 


◆位相特性

 二段増幅アンプですので、基本的に負帰還による発振の恐れはない(はず)ですが、念のため位相のずれをチェックしたのが右グラフ

 負帰還をかけたらどういう時に発振するか、については二つの条件がよく知られています。@位相が逆相になる(入力信号の位相に対して帰還信号の位相が180°進むか遅れる)Aその時のループ利得(裸利得×帰還定数β)が1以上ある――で、この二つが同時に満たされた場合は発振することになってます。

 まずAについてみると、本アンプの裸利得は24.1倍あり、負帰還回路は送り出し側抵抗約630Ω(1kΩVR)と受け側抵抗47Ωで構成されてますから、帰還定数βは47÷(47+630)=0.069。
 
 従ってループ利得は24.1×0.069=1.66となり、発振条件の一部を満たしています。それでは、ループ利得が1以上ある周波数帯域はどの範囲かというと、裸利得が14.5倍(1÷0.069)を超える部分なので、本アンプでは5Hz以下〜75kHzが相当します。

 この範囲で位相のずれが大きいと動作が不安定になる可能性があり、180°に達すれば確実に「発振器」になります。

 そこで@についてみると、上グラフのとおり10Hzで+15°、75kHzでも−54°(右画像)と全く問題ない状態です。200kHzで−93°まで遅れますが、このあたりだと裸利得が大きく下がっているので安心です。なお、10Hz未満部分については、アナログオシロの画面がチラついて目視では位相差を正確に読み切れませんが、進み具合が50°を超えることはなさそうな感じです。



【消費電力】 トランスの鉄損や銅損などを省いた概算ですが、B電源関係が整流直後電圧420V×144mA=60.5W、45のフィラメントが2.5V×1.5A×4本=15Wで計75.5W。一方、旧バージョンはB電源関係が56.5W、6FQ7(4本)、45(4本)、5AR4(1本)のヒーターが計39.62Wの総計96.12Wなので、20%強の節電となりました。

 全体の「暖房能力」はちと落ちたのですが、約18W分の カソード抵抗を収納した隔離部屋は真空管と違って触ってもヤケドしない程度のほどよい(?)熱さなので、冬場の手あぶりには最適かなと・・・



【簡単なまとめというか感想など】 しっかりと伸びて歯切れの良い低域、音離れや定位のすばらしさ、ビシツと決まったセンターを軸に広がる豊かな音場――全段差動アンプ特有の要素は旧バージョンも本機も似たり寄ったりです。旧バージョンと比べて最大の違いは静粛性と音色のナチュラルさが醸し出す何とも言い難い「心地よさ」。

 旧バージョンの残留雑音(0.4mV)は決してひどいレベルではなく、スピーカーぎりぎりまで耳を近づけない限り音として認識できない(老化した駄耳では・・・)のですが、それでも空気が重たいというかどんよりした愉快でない何かが感じられました。0.15mVまで下がった本機ではそれがなくなり、はるかに多くの細かい音がクリアに拾えている印象を強く受けます。

 旧バージョンはどちらかというと「オーディオ的傾向」の強い音でしたが、本機はそれよりもかなりナチュラルな雰囲気があって、よりシングルアンプの音色に近いと思います。多分、半導体による出力段の完全定電流化をやめて、カソード抵抗だけの緩やかな定電流化に切り替えた影響がいい感じて出ているんではないかと・・・

 当「6畳間」には現在、4台の全段差動アンプが生存してますが、コストパフォーマンスを無視して個人的な音色の好みだけで評価すれば6DJ8差動≒50CA10差動<71A差動<45差動となりました。全段差動は「基本的に真空管を選ばない」(隣のお姉さんでも深窓の令嬢でも一定レベルの音が期待できる)というのが定説のようで、私もそれに賛同しますが、とはいえ傍熱管と直熱管の間にはどうやっても越えられない「暗くて深い河」があるんではないかとも思っています。 (2014.05.24)


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