DC基準電圧・基準抵抗値発生器                                                                〜最大出力30Vにパワーアップ〜




  



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 デジタル・マルチメーター(以下DMMと略)の校正用に自作した「DC基準電圧・基準抵抗値発生器 Ver.2」ですが、最大出力電圧の制約から対応できるのはフルスケール5Vレンジまで。ところが、手元のDMMの中には、校正の基準となるレンジがフルスケール10Vや20Vの機種もあって、せめてこれらのレンジまではチェックしておきたいところです。

 そこで「Ver.2」をベースに、最大出力をDC30Vまでパワーアップしたのが本機で、出力電圧の確度は「Ver.2」同様に悪くても±0.02%以内を確保しています。この手の校正機器を作ってみようという酔狂な方はまずいらっしゃらないとは思いますが、参考にされるならこの「Ver.3」がより実用的です。


【アウトライン概略】

 基準抵抗値発生回路およびDC基準電圧発生回路のうちの20mV〜5V分は「Ver.2」のものをそっくり転用、これに別基板で組んだ5V〜25V発生回路を直列に接続して10V、20V、30Vを発生させています。

 そこそこ手頃なお値段で高確度な基準電圧が得られるICとなると5V±0.02%級がほぼ限界ですが、ここからどうやって10〜30Vを生み出すか・・・
すぐに思い浮かぶのはオペアンプもしくはディスクリートによる増幅回路で5Vの基準電圧を2〜6倍にしてやることですが、この方法の最大の問題点は増幅誤差がほぼゼロで2倍、4倍、6倍になっているかどうかを検証する手段が必要となることで、ちゃんと校正された1/2 7桁クラスの高級DMMでも持っていない限りアマチュアにはお手上げです。

 う〜ん、どうしたもんか・・・とあれこれ悩んだ末の結論は、個別の電源で動く5V±0.02%基準電圧ICを最大6個直列に接続して30Vを得るという単純な方法。これだと調整箇所が全くないので±0.02%の確度がそのまま保たれます。乾電池ならともかく、ブラックボックスのICがこうした形で正常に動作するかどうか不安もありましたが、やってみると全然問題ありませんでした。電圧も、ICを1個ずつ測定したものを足した数値がぴったり出力されていて、めでたし、めでたし。


【回路図】

 <回路図1>は基準電圧発生回路の全体像、<回路図2>は回路図1の最下段の破線部分を拡大したもの、<回路図3>は基準抵抗値発生回路です。

 電源は基準電圧ICのADR4550BRZに供給するボタン電池CR2032によるDC6V@〜Eと、ケース内を25℃前後に保つためのヒーター回路および6VをON-OFFするリレー用のDC12Vの二本立て。温度スイッチ基板は「Ver.2」と同じもの(ネットオークションで新品650円也)で、セメント抵抗3本を利用したヒーターを切ったり入れたりする温度を自由に設定できます。

 リレーは秋月電子が100円で売っている2回路12Vタイプの941H-2C-12D。これを3個使ってパワースイッチをONすると各ADR4550BRZが動作します。DC12Vはスイッチングアダプタを利用、回路の必要電流はヒーターON状態で約0.85A、OFF時なら約41mA.。

 出力コンデンサ1uF/50VはADR4550BRZの安定性向上やノイズ除去のためで、積層フィルムCを使いました。データシートでは最低0.1uFあればいいことになってます。
 



 <回路図2>の基本部分は前作の「Ver.2」と同じで、変更したのは出力コンデンサ容量と、30V出力を得るために上の階に繋がる電圧通路(V.OUT→ADR4550DのGNDへ)の新設、ロータリースイッチの電圧ポジションの移動と10V〜30V新設のみです。

         


 <回路図3>の基準抵抗値発生回路は、前作の「Ver.2」と同じで、変更部分はありません。


【基板構成とパターン】

 「Ver.2」ではタカスのIC-301-74(デジタルパターン)基板1枚に電圧及び抵抗値発生回路を組み込んでいますが、これの配線の一部を変更したうえでそっくり転用します。そこには新設する10〜30V発生回路を詰め込む空きスペースがないので、もう1枚のIC-301-74を用意してADR4550BRZ5個やリレー3個、6V電源×6を組み込み、これら2枚の基板を二階建てにしてケースに収容してます。

 は10〜30V発生回路の基板。

 ボタン電池CR2032(3V)は基板に専用ケースを取り付け、2個を直列に配線したうえで画像下側のリレーで基準電圧ICへの電力供給をON-OFFします。


 は配線パターン。青は0.35〜0.55mm径の裸銅線で、穴の塗りつぶしは半田ポイントです。青以外のラインはAWG24程度の被覆線を用います。


 基板の縦ラインのうちB、H、I、Jは赤マル部分で銅箔を削り落としてアースラインと絶縁させます。
 


 は基準抵抗値発生回路と5Vまでの基準電圧発生回路のパターン。ほとんど「Ver.2」と同じですが、10〜30V基板と連結させるためにADR4550BRZE周りの配線を一部変更しました。なお、基準抵抗値発生回路の2/3は諸般の事情で合成抵抗で仕上げてます。詳細は「Ver.2」をご参照下さい。


【ハラワタ】

 二階建て構造の一階が10〜30V基板、二階が5V以下と抵抗値発生基板になります。基板の三方を取り囲んでいるのがヒーター用のセメント抵抗。
 電池交換の手間を考えると10〜30V基板が二階にあった方が圧倒的に便利ですが、温度調節機能が働くとケース内上層部に暖かい空気が溜まる→その影響を受けて抵抗の温度上昇が早まる→規定の抵抗値に達する時間が短くなる・・・との見立てから、あえてこの配置にしました。
 


【基本特性】

DCレンジ
(A)
抵抗誤差に伴う
計算上の最大誤差
25℃での実測値 (B) 抵抗誤差ゼロ
の理想値 (C)
抵抗誤差で生じた
レンジ誤差 (B/C)
見かけの
総合誤差 (B/A)
30V 実測値に同じ −0.001%
20V 実測値に同じ −0.0005%
10V 実測値に同じ −0.0028%
5V 実測値に同じ +0.0004%
3V ±0.008% 3.000012V −0.0004% ±0%
2V ±0.012% 2.000008V −0.0019% −0.0015%
1V ±0.016% 1.000005V −0.0046% −0.0042%
300mV ±0.0188% 300.0012mV −0.0047% −0.0043%
200mV ±0.0192% 200.0008mV −0.0024% −0.0020%
100mV ±0.0196% 100.0004mV +0.0034% +0.0038%
30mV ±0.01988% 30.00012mV +0.0056% +0.0060%
20mV ±0.01992% 20.00008mV +0.0066% +0.0070%


 上表の読み方を簡単に説明しておきます。

・抵抗誤差に伴う計算上の最大誤差  3V以下のレンジは11本の抵抗で5Vを減衰させているので、各抵抗の誤差が出力電圧に影響します。各レンジの上流側抵抗と下流側抵抗の誤差が最も開いた時に出力電圧にも表の様な最大誤差が生まれますが、上流側数本が全部プラス誤差で下流側数本が全部マイナス誤差といったケースは現実にはまずあり得ないので、この数値は参考程度です。

・抵抗誤差ゼロの理想値  11本の抵抗が全て誤差ゼロだった時に5.00002Vから必ず生じる電圧で、3V以下に適用。

・抵抗誤差で生じたレンジ誤差  3V以下に適用されるこの誤差は、「実測値」を「抵抗誤差ゼロの理想値」で割ることで得られる。DMMのレンジ間誤差などを考慮する必要はあるものの、ほぼ実際の誤差と考えていいかと。

・見かけの総合誤差  実測値を理想電圧値で割ったもので、3V以下はレンジ誤差と基準電圧ICの誤差(+0.0004%)を足しても得られ、これが各レンジDC出力の確度となります。最も良いのは3Vレンジの±0%、最も悪い20mVレンジでも+0.007%と予想以上に良好でした。ただ、実測に使用したDMM(HP34401A 1/2 6桁)の公称確度は±0.0019%(10Vレンジで)なので、どこまで真の値に近いのかは何とも・・・



Ωレンジ 実測値(25℃、4線式 見かけの誤差
100Ω +0.0001%
200Ω +0.0005%
300Ω +0.0027%
1kΩ +0.003%
2kΩ ±0%
3kΩ +0.0024%
10kΩ +0.005%
20kΩ +0.0055%
30kΩ +0.0054%
100kΩ −0.0011%
200kΩ −0.0015%
300kΩ −0.0054%
 基準抵抗値については、全てのレンジで誤差±0.0055%以内に収まっていました。

 もちろんこれもDCレンジ同様にあくまで「見かけの誤差」であって、実測値が真の値を示しているかどうかは、現有の機器では残念ながら調べようがありません。

 ただ、公称誤差±0.01%抵抗ということは、最悪でも±0.01%以上のものは混ざっていないはずということなので、このくらい良好な数値が出たとしても特段不思議ではないかな、とも思います。

 なお、10Ωと1MΩは予算の都合で±0.1%級を使った「おまけ」なので、ここでは割愛します。




 (注) 5V以下のDCレンジとΩレンジの実測値は「Ver.2」「Ver.3」ともほぼ同じ(最終桁が若干違う程度)だったため、実測値の画像は「Ver.2」のものを転用しました。



【基本特性についての若干の補足】

 前にも触れましたが、この基準電圧・基準抵抗値発生器は増幅機能を持たないので、どこまで確度を高められるかは手に入れた基準電圧ICや分割抵抗の素性次第です。

 1個約700円で計10個購入したADR4550BRZの実測値(25℃)は4.99929Vから5.00091Vの間でした。誤差は−0.0142%〜+0.0182%で、全てがメーカー保証値の±0.02%以内に収まってましたが、結構バラつきがあります。その中に1個だけ5.00002Vという恐ろしく確度の高そうな個体があったので、これを5V以下のレンジ用に使い、残りの中から2個でなるべく10Vに近くなる組み合わせを探して10〜30Vとしました。ペアが組めない残り4個はあえなくジャンク箱行き・・・

 これらの20個や30個はものともしない財力orツキがあれば選別の自由度が上がって当方のデータよりかなり高確度になる可能性が高いですが、運が悪ければ±0.02%ギリギリのものがゴロゴロ・・・ってこともあり得ます。従って、上記の特性データは参考程度と思って下さい。 













【電池の寿命】

 6個あるADR4550BRZの電源はボタン電池CR2032なのでいずれは電池交換しなければならず、使用できる延べ時間のメドをある程度知っておく必要があります。

 データシートによるとADR4550BRZの無負荷時動作電流は0.7mA(標準)〜0.95mA(最大)。これに加え、20mV〜5Vを発生させているADR4550BRZEの場合は出力に計25kΩの抵抗がぶら下がるので、5V÷25000Ω=0.2mAの出力電流が生じますが、ADR4550BRZ@〜Dについては出力電流はゼロ。DMMを繋げば出力電流が僅かに増えますが、DMMの入力インピーダンスは低くても10MΩ、高いものでは10GΩ以上もあるため無視していい増加で、必要電流は最大でも1.2mAを超えることはなさそうです。

 そこで、CR2032の電池容量は220mAhのため220÷1.2=183時間としたいところですが、そうは問屋がおろしません。220mAhは開始時の3Vから終止電圧の2Vまで搾り切った容量と思われますが、2V直列の4VではADR4550BRZが正常に動作できないためです。正常動作には最低何Vの入力電圧が必要かというと、データシートではVDO(ドロップアウト電圧=入出力間の最小電圧差)が0.1V(無負荷時)〜0.3V(負荷2mA)なので、最低5.3V以上となります。つまり、CR2032一個あたりに換算すると2.65Vで、これが交換の目安です。

 では一体何時間使ったら2.65Vまで下がるのか? さしたる根拠もないのに「まあ100時間位かな」と思いつつネット検索してみると「IT技術者ロードバイク日記」というサイトに興味深いグラフ()がありました。


 各メーカーのCR2032を1mA定電流で連続使用した場合、時間経過と共に電圧はどう変化するかの実験結果がグラフ化されています。これによりますと、メーカーによって結構差があるものの、2.65Vに下がるには短いものでも約150時間、長ければ約190時間かかってます。「おっ、ずいぶん長持ちするではないの!!」


 本機の場合、@使用したADR4550BRZの個体によっては必要電流がグラフより多い1.2mA近くになる可能性があるAせいぜい数時間ずつの断続的使用なので電池のもちは連続使用よりも良くなるはず―などの不確定要素がからむのでグラフデータをそっくり当てはめることは出来ませんが、これに近い使用可能時間が期待できそうです。



【余熱時間と確度変化】

 電源ONからいかに早くベストコンディションの測定状態に入れるか、ユーザー側としては短いにこしたことはないんですが、メーカー製計測機器の場合、余熱(ウオームアップ)時間を1〜2時間としているものが多いようです。

 グラフは、本機の基準電圧出力の確度が余熱時間の経過とともにどう変化するかをチェックしたものです。

 基準電圧IC出力をダイレクトに利用している5V〜30Vの場合は、グラフ5Vに代表されるように電源ONからほとんど変化せずに安定しています。しかし、5V出力から抵抗分割によって発生させている3V〜20mVはなかなか安定せず、ベストコンディションに達するまでにたっぷり3時間かかってしまいました。

 これは、1/4W級とは思えない巨体を持つ各分割抵抗(計11本)の±0.01%以下の微妙な誤差の違いが、通電による発熱によってうまくバランスがとれるようになるまでの時間ではないかと思われます。


 リタイアして「ヒマだけはたっぷりある」身とはいえ、さすがに3時間待ちとなるとかなりいらつく結果ではありますが、DMMの校正なんて年に一度とかたまにしか必要のない作業なので、まあやむなし・・・ですか。



【おわりに】

 ±0.02%級基準電圧ICと±0.01%級抵抗であっても、ある程度のパーツの無駄を覚悟して選別すれば±0.005%以下の高確度が得られることがわかりました。普及型1/2 4桁DMMの確度は±0.05%前後のものが多いようですので、これらの校正用としては十分なレベル。さすがに1/2 5桁DMMとなると確度が±0.006%前後まで向上しますので厳しいですが、そのDMMの校正が必要かどうか位の判断材料にはなりそうです。
(2016.07.02)

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