3段直結71A/45互換シングルアンプ




















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 直熱3極管71Aと45をまったく同じ条件で聴き比べたくて作ってみました。上の画像でピンとこられた方もあろうかと思いますが、「全3段直結2A3/45互換シングルアンプ」がベース。主要パーツはおろか、シャーシもそのまま流用(手抜き)して2A3のかわりに71Aを挿せるようにしたものですが、ヘッドフォン・アンプとしても心地よく使えるよう、8Ω出力での残留雑音を0.1mVに押さえてあります。このための直流点火に加え、スペックが大きく異なる両真空管を無調整で差し替えられるようにするため電源部がややこしくなりましたが、まあ仕方がないかな・・・と。


【増幅部】




◆初段・ドライバ段 構成、回路定数とも全3段直結2A3/45互換シングルアンプ(修正版)とほぼ同じです。変更点は、プリアンプを介さずにUSB-DACを使えるようにするため入力VR(VR3)を加えたのと、負帰還の位相補正コンデンサを71Aと45で別々にしたことだけです。※45用のC1(2970pF)は2700pFと270pFの並列。

 ドライバ段までの増幅度は約180倍で、各段の増幅度や歪み、ロードラインなどは全3段直結2A3/45互換シングルアンプ(試作版)を参照して下さい。



◆出力段 71Aと45はサイズも構造もそっくりで、一見してわかる違いといえばプレートの色(71A=銀白、45=黒)とガイドピンの有無ぐらい。どなたかが「71Aをまとめ買いした中に、よく見たら45が1本混じってた!」と書いてらっしゃいましたが、その損得は別にして、売り主もうっかり見過ごされたようで・・・

 お二方とも戦前生まれ、今でいうところの後期高齢者ですが、その「美声」故にまだまだ現役で、主なスペックは下表の通りです。
           

   71A    シングル動作例 45
180V プレート電圧(MAX) 275V
20mA プレート電流 36mA
3.6W ? プレート損失(MAX) 10W
4.8kΩ プレート負荷 4.6kΩ
-40.5V バイアス -56V
5V0.25A フィラメント 2.5V1.5A
0.79W 出力 2W


 ご高齢故、目一杯で働いていただくのはさすがに気が引けますので、下図のロードラインのプレート損失は最大定格よりも71Aでちょっとだけ、45はかなり余裕を持たせたものとなっています。我が家の常用出力は0.5〜1W程度ですので、非力な71Aの場合は歪み率よりも出力を、出力にゆとりのある45の場合は歪み率を重視した形にしました。


 <71A>  <45>
 
このロードラインで、最もパワーが取り出せる最適動作基点は青丸(Ep 175V,Ip 19mA,Eg1 -40V)の辺りですが、歪み率向上も少し考慮して最適動作基点より僅かに左上の赤丸(Ep 167V,Ip 21mA,Eg1 -38V)付近を動作基点としました。

 プレート損失は約3.5Wで、6dBの負帰還をかけて歪み率5%の推定最大出力は1Wちょいが得られそうです。
 
 このロードラインで、最もパワーが取り出せる最適動作基点は青丸(Ep 265V,Ip 31mA,Eg1 -56V)の辺りですが、歪み率向上のため、最適動作基点よりかなり左上の赤丸(Ep 245V,Ip 35mA,Eg1 -47V)付近を動作基点としました。

 プレート損失は約8.6Wで、6dBの負帰還をかけて歪み率5%の推定最大出力は2.4W位になりそうです。


 シャーシ内で発熱量が最も多いのが出力段のカソード抵抗。45の場合、両チャンネル合わせて約12Wに達しますので、放熱対策と直流点火パーツ類のスペース確保を兼ねて、カソード抵抗をタカチのケースに収めてシャーシ上(電源トランスと出力トランス間の隙間)に放り出しました。


【電源部】

 


 「2A3/45互換シングルアンプ」電源部と異なっているのは、出力管の直流点火とB+電源の電圧安定化方式の変更です。

 出力トランスのインピーダンス比やアンプ回路方式によっても多少違ってきますが、フィラメント・ハムが8Ω出力ノイズとして与える影響を0.1mV以下に抑えるためには、交流点火ではまず不可能で、直流点火でもかなり残留リプルに気を使う必要があります。事前のテストでは、直結+出力段信号バイパス・ショートカット方式のこのアンプですと、直流点火とハム・バランサ併用でも残留リプルは130〜150mV以下に、ハム・バランサ無しですと4mV前後までリプルを減らす必要があることがわかりました。詳細はこちら(2.5V直熱管ハムと直流点火)。

 71AはAC6.3V、45はAC6.3-2.5V間で得られる3.8V(実質3.5V)が供給源。45の場合、順方向電圧が高い通常型のダイオードブリッジでは残留リプルを十分に下げられるだけの出力電圧が得にくいので、ショットキ・バリア・ダイオードブリッジ「D15XBS6」(60V,15A)を使用、部品数を減らすためダイオードブリッジや電解コンデンサは共用しています。「D15XBS6」は放熱板なしで2.1A(周囲温度25℃)まで取り出せるようですが、心許ないのでサロンパスならぬ放熱シートをペタペタと(画像右端)。
 71A用の残留リプルは約2.3mV、45用は同約115mVでした。


 「2A3/45互換シングルアンプ」ではMOS FET 2SK2608(VDSS900V,)のゲートにぶら下げた定電圧ダイオードでB+電圧の安定化を図っていましたが、B+電圧の変動とは逆の動きをする2SC3425(VCEO400V)のコレクタ電流の増減によって2SK2608のゲート電圧を安定化させる「バランス型」に変更しました。こちらの方が電圧安定度がより高くなるためです。

 本アンプの増幅部は、71Aと45を挿し替えた際のドライバ段と出力段の直流電圧配分計算を楽にするため、電源部2SK2608を出た「B+1」電圧(430V)やドライバ段プレート電圧(124V)が71Aでも45でもほぼ同じ(差は±0.5V程度)という前提で設計されています。しかし、71A仕様でのB電源総電流量は約53mA、45仕様だと約83mAと差が大きいので整流直後電圧が12V前後異なり、この差を埋めるために第1次リプルフィルタを兼ねたR27とR28で調節しています。


  

【調整】  電源を入れる前に、電源部のVR7(10kΩ)を回し切ってVRの抵抗分を全部R22側に移しておきます。これは、下流にある450V耐圧の電解コンデンサを思わぬ高圧から保護するためです。初段のVR4、ドライバ段のVR5(右図には抜けてます。すみません)はほぼ中点でいいです。

 電源ONしたらまず、アンプ全体の動作基準電圧となっている「B+1」の電圧(430V)の確定です。B+1の電圧が最も低い状態(400V位)になってますので、ここからVR7を回して430Vに固定します。


 次に6DJ8カソードのVR5を回して出力管のカソード電圧が71Aで161V前後、45なら170V前後に調節すればとりあえずOKです。真空管や半導体、抵抗値などのバラつきがありますから、右図の実測値とはピッタリ一致しないと思いますが、参考にされる場合はB+1と出力管カソードの電圧を最優先に調整して下さい。

 後は歪率計で0.5〜1W付近の歪みが最小になるようVR4とVR5で微調整しますが、なければなしでも音に大差ないはずです。負帰還量はVR1、VR2でお好みの量をどうぞ。R2のゲート側をアースに落とせば無帰還状態になります。

 71Aと45を挿し替えた際の調整箇所はありません。
 


【ハラワタ】
 全面解体の労を惜しんだらこうなりまっせ! という見本です。初段やドライバ段周り(画像上部)は平ラグの移動や継ぎ足しでぐちゃぐちゃ、部品交換のための半田ごてを入れる余地はほとんどありません。片や、下半分はラグ端子の空きがいっぱい・・・ 電熱器になってる20W型出力段カソード抵抗を外へ放り出したのが成果といえば成果かなと。

 ※ コンデンサや抵抗は在庫の都合で回路図記載よりも耐圧、W数の大きなものを使っている部分もあります。

   


【基本特性】
   

71A 45 備考
裸利得 22.7dB(13.7倍) 24.8dB(17.3倍) 71A=8Ω負荷1kHz 0.5W時
45 =8Ω負荷1kHz 1W時
負帰還量 6.4dB 6.2dB
最終利得 16.3dB(6.5倍) 18.6dB(8.5倍)
最大出力 1.13W 2.6W 1kHzでの歪み5%、8Ω負荷
周波数特性 13Hz〜108kHz(0/-3dB) 9Hz〜110kHz(0/-3dB) 8Ω負荷0.125W時
歪み率 100Hz 0.74% 0.44% 71A=8Ω負荷 0.5W出力時
45 =8Ω負荷 1W出力時
1kHz 0.53% 0.24%
10kHz 0.69% 0.37%
ダンピングファクタ 4.3 4.16 ON-OFF法、1kHz0.125W時、8Ω負荷
ch間クロストーク -79dB/1kHz -78dB/1kHz 0dB=1V
残留雑音 0.1mV 左同 聴感無補正



◆ 周波数特性

 71A  帯域が-3dB以内なら0.125W時で5Hz以下〜108KHz、0.5W時で10Hz〜83kHz、0/-3dBに絞っても0.125W時=13Hz〜108kHz、0.5W時=35Hz〜83KHzと、負帰還6dB強のシングルアンプとしては申し分のない特性だと思います。

 高域はすんなりきれいに落ちていて、10kHz方形波のリンギングはごく微細なものが観察できる程度です(は右端10kHzの拡大)。


 タンゴのU-808は高域に目立ったピークがなく、低域もしっかりした優秀な出力トランス(お値段もそこそこリーズナブル)ですが、個体によっては100kHz辺りにかなりのテラスができるものもあります。
 
    71A  100Hz                1kHz                 10kHz
        (いずれも上段=原形波  下段=再生波)


 45  データ的には71Aの低域側をさらにしっかりさせたのが45という感じです。

 帯域が-3dB以内なら0.125W時で5Hz以下〜110KHz、1W時で8Hz〜85kHz、0/-3dBに絞っても0.125W時=9Hz〜110kHz、1W時=30Hz〜85KHzと、これまた申し分のない特性だと思います。

 
 
それにしても、タンゴ(ISO)さんの廃業決定は本当に残念です。特に、出力トランスの選択肢が大きく狭まるのは辛い限りで、オークションでも新品価格を上回る高値相場が定着してしまって・・・





 
    45   100Hz                 1kHz                10kHz
        (いずれも上段=原形波  下段=再生波)



◆歪み率特性

 71Aはパワー優先、45は歪み率優先という動作設定の差が多少出ていますが、両者とも直熱3極管ならではの素直な歪み率特性です。
 45はドライバ管6DJ8との歪み打ち消しがうまくツボに嵌ったようで、1kHzの歪みが想定以上に少なくなりました。


 左下の【参考】グラフは、回路やパーツは同じで交流点火だった「2A3/45互換シングルアンプ(修正版)」の45歪み率特性ですが、右隣の今回のデータと比べると、0.36mVあった残留ノイズが直流点火によって0.1mVまで下がった結果、出力0.1W以下の領域の歪み率が大幅に向上していることがよくわかります。

 なお、交流点火版の方が中〜高出力領域の歪みが若干少ないのは、直流点火版よりも負帰還量が0.8dBほど多いためです。

 



◆ch間クロストーク特性

 出力管を挿し替えているだけ(厳密には、出力段のデカップリングとプレート電圧の調整を兼ねた抵抗が異なります)ですから、似たようなクロストーク特性です。
 そうした中で71Aの方が明らかに150Hz以下の低域特性が良くなってますが、これはB+電源を介して反対側chに信号が漏れるのを減らす出力段のデカップリングの差(71A=4.5kΩ+47μF、45=180Ω+47μF)が理由だと思います。



【ヘッドフォン・アダプタ】

 せっかくの低雑音アンプですから、ヘッドフォン・アンプとしても使わない手はありません。ヘッドフォン・ジャックを取り付ける適当なスペースがないというか、1.2mm厚の鉄板シャーシに取り付け穴を開ける気力がなくて、外付けのアダプタとなりました。

 回路は、ぺるけさんの「ミニワッター&ヘッドホンアンプ」から拝借、R1とR3(いずれも6.88Ω)は22Ω/0.5Wと10Ω/0.5Wの並列、R2とR4(いずれも1.4Ω)は4.7Ω/0.5Wと2Ω/0.5Wの並列。


【回路テスト時の注意点】

 B電源の回路テストの際には、回路の破壊を防ぐため以下の点を厳守して下さい。

 @ 無負荷で行う場合は、B巻線を350Vからいったん290Vに変更してから動作テストして下さい。350Vのままだと、線の巻き足しやAC100Vライン変動の影響で整流直後電圧が510V前後まで上昇することがあり、電解コンデンサC12〜C15の耐圧500Vを超えてしまって事故になる可能性が極めて大です。電解コンデンサがJIS規格の国産品なら550Vまで少なくとも30秒間は耐えられることになっていますが、輸入品の場合はその辺がどうなっているか?ですし、いずれにしても油断は禁物。

 A 350V巻線のままテストする場合は必ず、接地した大型抵抗などで「B+1」に40mA以上の負荷をかけ、整流直後電圧を500V以下に抑えて下さい。

 言わずもがなですが、全段直結回路ですので増幅部のテストは、テスト部の前段を必ず動作させた状態でチェックして下さい。うっかりドライバ管を挿し忘れて電源を入れたりすると、極端な+バイアス状態となって出力管に過大電流が流れ、気づくのが遅れると貴重な真空管を昇天させて泣きを見ることになります。


【簡単なまとめ】

 2.5V直熱管を直流点火してみたのはこれが初めてでしたが、求めていた「静粛性」以外に意外な結果も得られました。45の「おっとり」した中域の音色はこの真空管の個性と思っていたのですが、直流点火ではそれが薄れて相当シャープになり、かなり71Aに近づく感じです。これを「音痩せ」とみるか、「オッ、いいんじゃない」とするかは好みの問題でしょうが、信号回路の変更はありませんのでフィラメント・ハムの多寡(AC点火0.36〜0.6mV→DC点火0.1mV)が理由とみていいと思われます。

 本アンプ製作のテーマだった同条件での71Aと45の鳴き比べですが、結果はこれまで別々のアンプで聴いた印象をより鮮明に裏付けるものでした。

 71A 全体の音色が45よりやや明るめで、音のエッジがしっかり立っている。中域は力強くて鮮明、物理的な非力さを感じさせない底力がある。低域は45より音量ではやや劣るものの質感は優れている。高域は硬めでやや刺激的、質感は45には遠く及ばない。

 45 派手さはないが、全体として聴き疲れしない自然な音色。中域は直流点火でずいぶんしっかりしてきたが、それでもごく薄いベールの存在を感じる。低域は71Aより微妙に歯切れが悪い。高域はとてもリアリティがあって特に弦楽器は絶品。

 「こうだったらもっといいのに」との願望からいろいろ並べ立てましたが、両真空管ともとてもナチュラルな心地よい音色で、傍熱管や半導体ではなかなかたどり着けない世界を聴かせてくれるように思います。どちらか一方を選べといわれたら、個人的にはやっぱり45ですね。

 もっとも、「オーディオ的な音を楽しむ」のでしたら、6DJ8全段差動の方がよっぽど向いていますし、製作費もリーズナブルです。念のため。(2013.11.06)



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