よ な ば り
吉隠
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 かえでちゃん
 かえでちゃん
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吉隠の万葉歌

猪養の岡の黄葉が盛りを過ぎる頃、
収穫を終えた棚田は静かに眠りにつきます。

やがて、時雨が雪となり、淡く樹々を覆います。
穏やかに暮れる里山風景は、万葉人の詩情を誘いました。
吉隠を詠んだ万葉の歌は5首あります。
吉隠は、万葉のふるさとです


 
但馬皇女が亡くなられた後、穂積皇子が冬雪の降る日
皇女の御墓を遥かに望んで涙を流し詠まれた歌

降る雪は あはにな降りそ 吉隠の 猪養の岡の 塞なさまくに(寒からまくに)  万葉集 巻2ー203 穂積皇子

 雪の棚田風景

 棚田の雪景色
 万葉集には、穂積皇子と但馬皇女の恋の歌がいくつか残されています。
 しかし、但馬皇女は、高市皇子の元にあり、二人の恋は、許されざるものでした。
 
やがて、人のうわさが立ち二人の恋は終わりを告げます。なお慕う皇女の思いを、穂積皇子はどのように受け止めたのでしょうか…
 が、ほどなくして皇女は、若くして亡くなってしまいました。
 この歌には、皇子の悲しみとともに、まだ消えぬ皇女への愛おしい思いが込められています。
 吉隠の猪養の岡にある皇女の墓所を塞ぎ、行く道を閉ざしてしまうかのように降る雪。
 墓所のあるあたりが雪霞みで見えなくなっていく様子を遥か遠くに望みながら、皇子の思いは募ります。


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大伴坂上郎女が

跡見田庄(とみのたどころ)で作られた歌

吉隠の 猪養の岡に 伏す鹿の 妻呼ぶ声を 聞くがともしさ   巻8ー1561 大伴坂上郎女

 高塚山の紅葉

 猪養の岡? 高塚山の紅葉

 大伴坂上郎女は、万葉集を代表する歌人の一人です。
 この歌は、彼女の弟、大伴稲公の荘園であった跡見田庄で詠まれたとされる2首の一つです。
 秋の夜は、今でも鹿の鳴く声をよく耳にします。
 雄鹿が雌鹿を呼ぶ声を聞き、ともしく(=羨ましく)思う。その作者の胸の内を見透かすかのようにキィーン、キィーンという鋭くかん高い鳴き声には、なんとも言えない、もの寂しげな響きがあります。




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 詠黄葉

我がやどの 浅茅色づく吉隠の 浪柴の野の 黄葉散るらし   巻10ー2190 作者不詳

 棚田の畔の浅茅

 初雪が降り、棚田の畔に浅茅が映える


 万葉集には、秋の草木の色付きを「紅葉」ではなく「黄葉」と書かれています。
 確かに秋の色付いた山々をみると「黄葉」と書くのが自然のように思います。
 浅茅とは、田んぼの畔によく茂る茅(ちがや)のことです。枯れた茅は「赤朽葉」色。秋の日差しが射すと赤みを帯びて映えます。
 万葉の歌には、古来、日本人が持つ細やかな色彩感覚や美意識が息づいています。
 歌に詠まれた浪柴の野はどこか、その所在はわかりません。
 ただ、色付いた茅が波打つように重なる棚田と雑木林が織りなす里山の風景が目に浮かびます。


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我がやどの 浅茅色づく吉隠の 夏身の上に しぐれ降るらし    巻10ー2207 作者不詳

 晩秋の朝靄風景

 晩秋、朝の陽を浴びて沸き立つ靄(もや)

 吉隠に夏身(なつみ)という地名はありません。
 泥のことを「ナズミ」とも読みますので、これは地名ではなく単に泥地や湿地のような場所をさしているのかもしれません。
 時雨(しぐれ)は、晩秋、季節の変わり目に降る雨です。
 稲刈りがすんだあと、来年のために起こした田んぼは泥濘(ぬかるみ)になります。
 雨があがり、めっきりと冷え込むようになった朝。
 まだ、ぬくもりのある秋の日差しに温められると、棚田のあちこちから靄(もや)が立ちのぼります。

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寄冬

吉隠の 野木に降り覆う 白雪の いちしろくしも 恋ひむ我かも    巻10ー2339 作者不詳  

 雪化粧の吉隠の集落

 うっすら雪化粧する吉隠の集落

 万葉集には相聞歌、いわゆる「恋の歌」がたくさん載せられています。
 恋の感情などをものにたとえて表現することを、寄物陳思(きぶつちんし)といいます。
 冬、野木を覆うように積もった雪。
 作者は、その真っ白な雪のようにはっきりとした恋をしている自分を見つめています。
 雪がやむと決まって青空が顔を出します。
 すると、木々に積もった雪は、その心を知っているかのように、冬の陽を浴びてキラキラと輝きはじめます。

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