身体の話

「子供の身体の危機!」

 子供の身体能力、体力、柔軟性は低下傾向にありますし、運動の得意な子とそうでない子が二極化しているとも言われています。身体にも格差が生まれているとすれば大問題でしょう。

 今時の子供は、しゃがむことができない、片足立ちでふらつく、まっすぐ走れない、あぐらをかけない、うちわを自分であおげない、ぞうきんがけで骨折するなど、びっくりするような話が聞こえてきます。いくらなんでも、ひどいのでは。 

 スポーツをしている子供でもそのような傾向が見られるということです。外で木登りをしたりなどの遊びによって行われる複雑で自由な運動をスポーツではできていなくて、偏った運動になってしまっているということなのでしょう。スポーツは意外と単純な運動成分になってしまいがちなのです。このような子供たちが大人になってさらに高齢者となるころには・・・と考えると恐ろしさすら感じます。日本の将来の大問題として、メディアや教育現場、行政でも扱うべきだと思います。

 子供の教育論については、色々なことが言われています。それぞれが何かしらの理論に基づいていて、一理あるものも多いとは思います。しかし、1日24時間であることは変わりませんから、何かを選択するということは、何かを選択しないということです。英語の勉強でも何でも、同じ効率で行ったとすれば、何かの時間をプラスすれば何かが犠牲になっているはずです。現代では運動の量も質も落ちているということを勘定に入れて、どんな時間の使い方をするのかを選択しなくてはいけません。

 身体の問題は、単に運動能力の低下にとどまりません。日本人の知性の劣化ということは昨今よく言われることですが、これも身体の問題と関係があるというか、不可分に結びついていると考えた方がいいと思います。「身体を通した知性」「身体を使った学び」などということを本格的に見直さなくてはいけない時代にきているという認識が必要でしょう。

 学者や思想家など知的エリアで仕事をしている人でも、私が尊敬するような先生方は武術など何らかの身体文化をバックグラウンドにお持ちであることも多く、身体性というものが知性の土台にある方ばかりです身体を軽視した社会では、本当の知性が生まれないのではないでしょか。

 都市環境や学校教育の問題は、今すぐには変えることはできません。そんな中で個人や家族単位でも、スマホなどのデジタル機器とどう付き合うのかなど、社会環境から「身を守る」手段も考えないといけません。こんな時代だからこそ、何らかの身体文化に接するということの価値も高まるべきでしょう。そして、その身体文化の恩恵を子供たちが格差なく享受できるような社会を目指すべきだと思います。

参考図書

「運動がとくいな子になる育児BOOK」高岡英夫監修 成美堂出版


「身体の潜在能力は想像を絶する!」

 1俵60kgの米俵をなんと5俵担いでいる女性の写真がネットでも話題となっています。戦前とはいえ、昭和の時代ですので、そんなに大昔というわけではありません。現代の常識ではあり得ないことですが、昔の人の力が単に強かったというだけではなく、身体づかいのパラダイムが違った、ということなのでしょう。

 土俵の鬼という異名を持っていた、初代若乃花は入門前の10代の頃に、200kgもの荷物を担ぐ労働をしていたということで、現実にそんなことがあり得たわけです。

 人間の身体が持っているポテンシャルというものは、私たち現代人の常識からは、信じられないほどの可能性があるのではないでしょうか。考えてみれば、人間だって野生動物の一種です。人間の身体能力はサルやネコやカバなどに遠く及びませんが、本来は同じようなポテンシャルを備えていても当然だとも考えられます。

 江戸時代の武術家のエピソードなどは、現代の基準ではウソのような話に聞こえてしまうものが多いですが、当時ではわりと普通のことだったのかもしれません。

 そのような、現代の常識をくつがえす本を紹介します。

「ヒトは地上最速の動物だった」 高岡英夫著 講談社

 タイトルからしてびっくりです。『ウサイン・ボルトでは遅すぎる』というような挑戦的な言葉にも、興味がそそられますよね。帯には「速度」と「持久力」を求めるアスリート必読!とありますが、私たち現代人が「どう生きるべきか」ということまで考えさせられる本なので、人間の身体的ポテンシャルや、文化全般に興味のある方、ぜひご一読ください。


「文化を楽しめる身体」

 スポーツや音楽などのファンであれば、それらを楽しむことの感度が上がってより感動が増すのであれば、とてもハッピーですよね。スポーツなどをやる側のレベルアップは想像しやすいですけど、観る側のレベルアップとは何でしょうか。

 私は、スポーツや音楽を観る目(と耳)を育てるためには、自分の身体をレベルアップさせることが肝心だと考えています。逆に自分の身体が変わらないことには、本質的なものを感じ取る能力は、実は成長していないということなのです。身体の感度のレベルアップと知識とがリンクして高まることが求められるわけですね。知識だけで分かることは実はかなり狭いエリアなのです。

「ゆる体操」や「ゆるトレ」と呼んでいるトレーニングの数々を行うようになってから、あらゆるスポーツが楽しくてたまらなくなりました。たとえば身体のセンター(軸)というものは、自分にセンターができてくると人のセンターも見えるようになってきます。これは知識で分かるのとは違うわけです。かなり分かりやすいところでは、フィギュアスケートやクラシックバレエのターンをする回転軸がブレずにできているときのセンターの美しさを感じることができます。そこまで分かりやすくセンターが使われている局面でなくても、恒常的に発揮されているセンターを感じることができるようになるのです。

 それは、気品だとか凛とした美しさなどという言葉でも表現されるようなものですが、本当のトップアスリートや芸術家からはそのような身体が生み出す奥深さを感じるものなのです。自分のセンターができてくると、それを感じる感度もアップするのですね。本当に観る目が成長するとは、そのようなことを指すのではないかと私は考えています。

 音楽の場合は、身体そのものを直接的に見せる文化ではありません。ですが、演奏を支える身体の感覚、それはセンターであったり熱いハートであったりハラの据わった感じであったりしますが、それらを「身に沁みて」感じることができるのです。それは意味を理解することとは次元が違います。もちろん意味を考える聴き方が悪いというわけではありませんが、身体の感覚とリンクして脳を使えるということが肝心なのです。

 スポーツや音楽などを愛好する人たちが、身体を通じてそれらを楽しみ評価するようになれば、その文化は格段に成長するのではないでしょうか。身体をゆるめてセンターを通せば、快適で健康にもなって、その上スポーツや音楽をより深く感動できるようになります。あらゆる文化をもっと楽しめる身体になろう!

参考図書

「体の軸・心の軸・生き方の軸」高岡英夫著 ベースボールマガジン社


「身体のやわらかさには2種類ある」

 身体がやわらかいとはどういうことか?一般的には、前屈して手がぺたーっと地面に付くとか、脚が大きく開いたり上がったり、などというイメージでしょう。これは関節の可動域が広いということです。もう一つの意味は、筋肉などのパーツそのものがやわらかいということ。触ってみて、つきたてのお餅のようにトロトロふわふわであればいい筋肉だということです。この2種類のやわらかさはリンクはするものの別々の要素とも考えられます。

 身体が「ゆるんでいる」とは、筋肉そのものがやわらかいということなのです。一般の方は、脚がめっちゃ開くなどといったことよりも「ゆるみ」の方が圧倒的に求められると思います。クラシックバレエなど可動域が広いことが必須である分野もありますが「ゆるんでいる」ことは、あらゆる身体文化に共通して大切なことなのですね。

 トップアスリートでも、意外と可動域が狭い人がいます。マラソンの高橋尚子は、テレビで「私身体固いんですーっ」とか言いながら前屈していましたが、手から足先まで30cmくらいは開いていました。バレーボールの木村沙織も、見た目からもふわっとした印象がありますし柔軟性があるためにケガが少なかったということが指摘されていますが、前屈などをさせるとチームで一番固かったとこれもテレビで言われていました。

 骨に対しての筋肉の長さには個人差がありますから、この両選手は筋肉が短いタイプなのかもしれません。前屈がぺたーっとできなくても、身体をゆるませることには成功していたわけなので、それぞれの競技力は発揮できたわけですから全然問題ないわけです。

 ストレッチにもゆるめる効果はありますが、可動域を広げることを主な目的としている人が多いでしょう。しかし、可動域を広げることばかりを頑張ってしまうと、むしろ痛めてしまうこともあります。アスリートでも競技中ではなく、アップ中に故障することが意外と多いのです。ケガを減らすためのストレッチでケガをしてしまっては本末転倒ですよね。

 一般の方は身体を「ゆるませる」ことによって、自然に可動域も少しづつ広がっていくというくらいが、故障しにくく健康的でいいと思います。広い可動域が必要となるスポーツやバレエに取り組んでいる方も「ゆるませる」ことを優先させながら、細心の注意を払いながらトレーニングすることが求められます。ヨガをするときでも、難しいポーズをとることばかりを優先させない方がいいでしょう。

「ゆる体操」にもストレッチの要素は入っていますが、安全に無理なく行えるようにできています。「ゆるトレ」も「ゆるケアサイズ」も、故障することがないように開発されていますから一般の方も専門種目をお持ちの方も安全に取り組んでいただけるのです。安全第一!