経済とは案外鈍重なものなのかもしれない


 今から20年ほど前でしょうか、ある大企業の経営者の方がテレビ番組で「これからは正社員をパート社員に切り替えていく、パートさんでも労働力に遜色ないし、経費を下げる事ができる」と言う意味の事を話されていた事があります。
多分、その経営方針で業績を上げられたのでしょう。 ………短期的には。
 しかし、その動きは多くの追従者を産みました。あまりにも多くの企業が追従したことで、その動きは日本全体でのものとなりました。
 ところが、それは逆に非正規社員を労働力の中心に据えないと立ち行かない社会をもたらしてしまいました。単に業績を上げる為ではなく、そうしないと製品の価格競争に負けてしまいますから。


その結果何が起こったでしょう?

 それは「日本全体として 給料として支払われるお金そのものが減ってしまった」という事ではないでしょうか?
 給料の総額が減ってしまえば当然 景気は後退しますよね。物を買おうにもその元手がないのですから。
 「正社員をパート社員に切り替えて経費を削減する」と言う経営方針はひとつの企業としては正解だったかもしれませんが、日本全体での動きとなってしまった為に経済キャパシティの縮小をもたらしたのではないでしょうか?


人口の変化はさらに緩やかです

 経済は縮小していきましたが人口の変化はそれについて行けませんでした。そうですよね。「人」の一生はずっと長いものです。働かなくてはならない人の数はそうそう減りません。
 ところが働き口は減っていっています。だから、多くの人が給料が安くてもとにかく職に就ける事を優先しました。それは雇う側を優位にして、人を安く雇う事を可能にしました。そして、安い給料で働かなくてはならない人が買える物は安く買えるものだけになってしまいました。それは経済の縮小をさらに加速させてしまいました。
 かくて、商品は更に安く売らなくてはなくなり、普通に働く人(実は経済の鍵を握っている人)の給料が低下して、それが経済を縮小させる…… 悪循環は止まらなくなりました。


現在のデフレはここ数年の問題ではなく

 先の大企業の経営者が20数年前に起こされた、正社員をパート社員に切り替えるという経営方針が今になって日本経済全体に影響を及ぼしているのではないでしょうか?
 先の大企業の経営者はそこまで考えられておられたでしょうか? その大企業は短期的には業績を上げられたのかもしれません。でも 日本の経済そのものが縮小してしまった現在、果たしてその大企業の業績はパート社員に転換された前より良いと言えるのでしょうか。
 社員の非正規化だけではなく その他のコストカットなどを含めた経営効率化の流れも問題だと思います。
 この動きの初めの頃は、それまでの経済活動の惰性で人々も企業も消費を続けていました、ところが実は少しずつ、少しずつ経済の活力を削いでいたのではないでしょうか?
 その変化があまりにもゆっくりだったために 短期的にしか経済活動を見ることができなかった大企業の経営者はもちろん、お役人、政治家も昨今の不況の原因と結びつける事が出来ないでいるのではないでしょうか?


政府は何か景気対策をすれば

 すぐにでも結果が出るかの様に言っていますが果たしてどうでしょう?
 現在の不況は、20数年前にバブル経済がはじけた後に起きた「経営効率化・コストカット」の流れが 今になって社会の問題としてフィードバックされているのだと僕は考えています。
 行き過ぎたコストカット社会に陥っている現在、日本全体の経済活動を変えようとするなら20年、30年といった もっと長い期間をかけないといけないのではないでしょうか? しかも、普通に働いている人が正当な労働の対価を受け取る事が出来なければ一時的な好景気もすぐに収束してしまいます。果たしてこの不況から抜け出す事は出来るでしょうか?



2016/12/26



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