トップページ > 杉コラム > 1.吉野の樽丸づくり
杉コラム

1 かつては吉野の主力製品 樽丸

「樽丸」とは、樽をつくる木の材料のことです。吉野杉から作った「クレ」と呼ばれる酒樽の側板になる板材を、運搬のために竹の輪の中に詰め込んだ丸い形から「樽丸」と呼ばれるようになりました。酒樽をはじめとする樽丸の側板には古くから吉野杉が使われ、吉野地方で大量に製造されていました。樽丸は酒造が盛んだった兵庫県の灘や伊丹などで好まれました。吉野杉の樽丸材は「色良し、香り良し、年輪が均一、無節」の優れものだったからです。
現在は瓶などの代用品が出回り、飾り用化粧樽や祝い事などにわずかに需要があるほどですが、江戸時代後期~明治時代には吉野林業を代表する生産品となり、最盛期には吉野林業そのものが「樽丸林業」と呼ばれていました。
樽丸とクレ
樽丸とクレ
「クレ」と呼ばれるのが酒樽の側板材料。
これを遠方まで運びやすいように丸く束にした荷物が「樽丸」である。吉野で生産された樽丸は、兵庫県など酒造が盛んな地域の職人さんの手によって、樽へと作られている。
吉野杉酒樽
お酒がもれない工夫
できあがった酒樽はかつて江戸まで船で運ばれていた。途中で中のお酒がこぼれることのないように、しっかりと竹の輪で締めておく必要がある。
年輪が密な吉野杉は、竹で強く締めたときにも割れない強度を持っている。
板目の方向に割るのは、ちゃんと理由がある。ちょうど秋~冬に成長したかたい年輪(冬目)が外に水分が抜けてしまうのを防いでくれるのだ。
酒樽
樽丸材としての条件
目合い(年輪)が緻密、無節であること。
一枚の板に最低6~8本の年輪が入っていること。
また、樽の使用用途によって使用する木材品質なども細かく分類されている。例えば、樽酒の容器には源平(甲付)を使う。これは、源平、つまり赤身と白太の間にある「白線体」がアルコールが外に漏れるのを防いでくれるためだ。
樽丸ができるまで

吉野でも樽丸職人はわずかになりましたが、今も川上村で樽丸の製作に取り組む春増様を訪ねてお話をうかがいました。酒樽の一般的な大きさである四斗樽(高さ56×直径55cm)用の樽丸づくりを見学させていただきます。

樽丸ができるまで
樽丸用に選木した木に、木取りをする。

樽丸ができるまで
使う道具は大包丁と小包丁。

(1)大割り
色の良い木を選び、約55cmの背に小伐った丸太を、大割り包丁と木槌を用いてミカン割りに割る。 
現在は油圧式の機械を使っておおまかに割るところが多い。

樽丸ができるまで

(2)小割り
芯からさらに小割包丁で割り込を入れ、年輪にそって割っていく。

このとき赤身と白太が混じった源平の部材は”甲付”とよばれる。甲付は真ん中に白線体という層があり、アルコールを通しにくい性質があるため酒樽によく利用されるそうだ。

樽丸ができるまで
樽丸ができるまで

3)削る
「セン」と呼ばれる削り包丁で、元末が同じ厚みになるように美しく削りあげる。これで樽丸の素材が完成。

樽丸ができるまで

樽丸ができるまで
削り作業に欠かせないのが、右上写真の
「内セン」と「外セン」という刃物。
これで形を微妙に調整していく。

(4)乾燥
できた樽丸材は、約6カ月間 乾かして出荷される。

樽丸ができるまで