人件費を上げれば平均所得は上がるのか?


 「経済成長の為には 人件費が上がらなければならない。」新聞、テレビなどでそう言われています。では、単純に“人件費”を増やせば国民の平均所得は上がるのでしょうか?
 「当たり前だ。人件費を上げるのだから平均所得は上がるだろう。」多くの人がそう言われる事でしょう。しかし、実際にはそうは為らないかもしれないと思うのです。 (ここで言う“平均所得”とは真面目に働く普通の人々の平均所得です。特殊な立場の特別多くの収入を得ている人の所得は省いて下さい。)


“人件費”を上げたからと言って平均所得が上がる訳ではない

 皆さん、勘違いをしていらっしゃる。「“人件費”を上げれば平均所得は上がるだろう」と。しかし、良く考えて下さい。“人件費”とはどこから出ているのでしょう。 その企業が得た売り上げの中からですよね。その売り上げが十分でなければ“人件費”を上げることは出来ません。自社ブランドで製品を売ることが出来る企業なら自らで製品の値段を決める事が出来ます。売り上げが十分でなければ製品の値段を上げればよろしい。(その為に販売量は落ちるかもしれませんけどね……。)
 しかし、下請け企業ではそうはいきません。大抵の場合、上位企業の圧力に逆らえず言いなりの単価で製品を納ざるを得ないのではないのでしょうか?
 つまり、“人件費”を上げようにも“売り上げ”が上がらなければ“人件費”は上げることは出来ないのです。


では、下請け企業の売り上げは何処から出ているのでしょうか

 遡って、遡って、遡って行くと最後に行き着くのは大企業です。では、大企業では調達された部品の代金は何処に計上されていのでしょうか?  まさか、“人件費”には計上されていないですよね。おそらく“製造コスト”として計上されているのではないでしょうか?
 今、多く企業、特に大企業はコストカットにご執心です。数値で表す短期的な企業業績を良くするなら“コストカット”は正論です。政治家やお役人、各メディアが「“人件費”を上げなければいけない」と言っても 当の大企業は「“人件費”を減らしているのではない“製造コスト”を削減しているのだ。」と言われることでしょう。


納入した部品の単価を切り下げられた下請け企業では

“人件費”を上げることは可能でしょうか?
 経営状態に余裕があるなら それも可能でしょう。しかし、ギリギリの状態で持ちこたえていただけなのに“人件費”を上げろと言われてもとても出来ない相談だと思います。
 僕は大企業と中小企業で働かれている人の割合がどのくらいなのかは知りませんが、圧倒的に中小企業で働かれている人の方が多いと思います。国民全体の所得を上げるためには中小企業(零細企業も含めて)の売り上げが上がらないといけないのだと思います。


下請け企業の危機

 最近、“平均時給”が上がっているそうです。一見、良い事の様に見えます。経済好転の兆しに見えます。しかし、もっと多くの数字を鑑みないとそうとは言い切れないのです。
 平均時給が上がったのはそうしないと人を雇えないから。人々はより多くの収入を得られる所で働こうとします。では時給を上げた下請け企業では売り上げが上がったのでしょうか? そうは思えません。おそらく人を雇う為に他の出費を削って“人件費”を捻出されたのでしょう。無理して捻出されているのだとしたら何時までその状態を維持できるでしょう。
 売り上げが上がらないのに“人件費”が上がってしまうのは中小企業にとって危機的状況かもしれないのです。


物価の危機

 「それなら大企業が下請け企業に十分に支払いをすればいいじゃないか!!」。いえ、それで問題解決とは言えないのです。下請け企業に十分に支払いをすれば製造コストが増えます。その分は何処に転化されるでしょうか?  株主への配当を減らす? 大企業が自社の蓄えに回す分を減らす? 経営幹部や役員への報酬を減らす? おそらくどれもしないでしょうね。単純に製品の値段を上げる。
 家電や自動車などは多くの部品を下請け企業に発注して作られています。その各部品 全てを各段階 10%値上げしたとしましょう。果たして製品の価格は10%の増加で済むでしょうか? 
 全ての部品の仕入れ価格を値上げしたとすると雪だるま式に膨らんで製品の値段は予想以上に上がってしまうかもしれませんね。どうします? テレビや冷蔵庫の値段が2倍とか 3倍(いや、もっと?)になったら?……  僕は経済の士ではないので実際にどうなるかは全く解りません。しかし、単純計算では済まないのだろうとは思います。
 そうなると販売量は減るでしょうし、物価は上昇するでしょうね。
 「物価が上がるのは政府の目標なのだからいいじゃないか」と言われるかもしれませんが政府の目標の2%で収まるでしょうかね?……。この物価上昇はコントロールされたものじゃないから5%、10%と際限なく上昇するかもしれませんね。そして普通の人々の所得増加はそれに追いつかない……。


人々の所得増加はもっと早い段階から逐次行われるべきでした

 製品を安く作る為に下請け企業への支払いが抑えられてきました。それ故、モノが売れなくなってしまいました。そして、さらに製品を安く作らなければ為らなくなり、支払いを抑え、モノが売れなくなり……。悪循環です。「コストカットのジレンマ」です。
 今の日本の経済は水から茹でられるカエルですね。立場の弱い人々に少しづつ、少しずつ負担をかけて家電や自動車などを安く作ってきました。気が付いた時にはどうにも為らなくなっていました。 「長いものには巻かれろ」と言われますが 長いものに巻かれすぎた結果が現在の日本の経済です。下請け企業の社長さんはもっと早い段階で商品の単価の値上げを求めるべきでした。仕事を失わない為に無理をして値下げの要求に応じた為に余計に経営が厳しくなり、回り回って日本の経済全体がおかしくなってしまいました。
 色々なところで問題が吹き出してから慌てて、「賃金増加が必要だ」とやっても、それがどんな風に物価に影響を与えるかは誰も正確に言い当てることは出来ないのでは無いですか?


大企業だけが“人件費”上げてもダメなのです

 結果として“人件費”を……、“日本全体を通しての人件費”を上げることが出来れば 平均所得も上がり、経済成長も有りうるでしょう。しかし、「“人件費の総合計”が上がればいいんでしょ」とばかり 政府が大企業に働きかけて 大企業の人件費を上げて“人件費の総合計”を釣り上げるのは本末転倒です。それでは経済成長など有り得ないのです。
 “日本全体を通しての人件費”を上げる為には大企業には下請け企業に十分な支払いをしてもらわなければならないのです。 でも、その為に家電とか自動車とか普通の人々が生活するのに必要な物の値段がそれ以上に上昇してしまっては元も子もないのです。むしろ大企業に限って言うと“人件費”を削って下請け企業への支払いに回してもらった方が“日本全体を通しての人件費”を上げることが出来るかもしれないのです。
 “商品の値段”と“それを作るための総合計の人件費”~最終的に商品を出荷する企業の人件費ではなく ネジ1本を作る企業を含めた総合計の人件費~のバランス点を見失っているんじゃ無いですか。 でも、今すぐそれを正しい位置に戻そうとすると思わぬ結果になるかもしれませんね。
 さぁ、果たして日本経済は普通の人々が安心して暮らせる正しいバランス点にたどり着く事が出来るでしょうか。



2017/11/27



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