医療法人 小原クリニック 泌尿器科,内科

院長のつぶやき

 思い起こせば、10年前、清水の舞台から飛び降りる心地で、岡島教授に開業することのお許しを頂くために上がった教授室で、「どこで開業するのか。」のお尋ねに、「三郷町でやります。」と答えましたが、そのとき、不安でいっぱいの私の心を見透かすように、「決して甘くはないぞ。」とご忠言を受けたことを克明に覚えております。 「もう後戻りはできない。」「こんな小さな町で大丈夫か。」「本当に経営できるのか。」という不安と、「どうにかなるやろ。命まではとられへんわ。」という開き直りで、平成8年7月10日に診療を開始して、早10年が経ちました。
 あっという間の10年というよりも、何時の間にか10年の月日が流れていったという感じです。 居心地が良いのか、それとも他の診療所では使い物にならないから仕方なしにこの診療所で留まっているのか解りませんが、看護師も事務職員も開始した時のまま。出入りするあらゆる業者も開始した時のまま。診療所内外の環境は、ほとんど変わらずで、時だけが過ぎていった感じです。

 開業当初、家内は、診療所の手伝いをしばらくのみと決めておりましたが、彼女なりに働くことの有難さを自覚したのか、はたまた、私を含め職員の「縁の下の力持ちとして診療所を支えなければ」という信念なのか真意はわかりませんが、毎日、せっせと診療所の雑用係りをしてくれています。 往復の車中での雑談のお陰か、勤務医の頃は絶えなかった夫婦喧嘩も殆どなくなり、平穏な日常生活に感謝しております。

 幸か不幸か解りませんが、三郷町周辺の平群町、斑鳩町、王寺町は、どんどん開業医が増えている一方、我が三郷町は、この10年間で新規に開業されたのは、2年前の胃腸科の医院のみで、県立三室病院という基幹病院があるにも拘らず、人口の割には医療過疎状態で、医院同士の競争が見られないのも、「何時の間にか月日が流れていた10年」の一因ではないかと思っております。
とはいえ、この10年間にはいくつかの節目や小波があり、思いつく限り列挙しますと、
1) 診療日の変更
2) 院外処方箋への切り替え(平成12年7月)
3) 医療法人への切り替え(平成13年8月より)
4) 警備会社との契約打切り日に泥棒が闖入
5) 予期せぬ交通事故との遭遇(平成13年12月3日)
6) 娘の結婚と孫の誕生
7) 精神病院からの診療応援
8) 胃カメラの導入(平成18年1月より)
9) 老舗医院の閉診に伴う雑用の増大
etc

少し、注釈を加えますと、
1) の診察時間については、
開業当初、診療時間は、毎曜日午前9〜12時、午後は木曜日と土曜日を除いて5時〜8時としておりました。木曜日を除いて、他の曜日は、受診患者数が右肩上がりで伸びておりましたが、木曜日に限って、一向に増えず、むしろ減る傾向にありましたので、その原因と今後の展開を考え、受診患者約200人にアンケートを取ったところ、「木曜日は診療所が休み」という潜入意識をもっておられる方が大半で、例外に漏れず、「当診療所も休診と思い込んでいた。」と。どうもこの患者潜入感が原因だったようで、同時に、希望を訊ねますと「土曜日の夕方、診療してほしい。」という方が大勢おれましたので、平成10年10月より、木曜日は休診にし、土曜日の午後4〜7時の診療を開始しました。より多くの患者さんが来られることを心に描いて土曜日の午後診を始めたのですが、結果は、惨敗で、坊主に近い日もあり、一年間は辛抱しましたが、土曜日の午後診は止め、現在に至っております。

5) の事故については、
その日は、休診の木曜日で、朝から蓄積した雑用を片付け、午後よりある会合に出掛けるため、診療所の前の歩道でタクシーを待っていたところ、よそ見運転の軽乗用車が前の車との追突を避けるため、突然、急ブレーキをかけると同時にハンドルを左に切った際、スピンして、歩道にいた私を見事にヒット。不意打ちを食らった私は、右膝関節内の脛骨複雑骨折、左膝蓋骨骨折、左第8-10肋骨骨折、右顔面挫創という診断で、即刻、両膝の手術を受け、12月24日まで県立三室病院に入院致しました。退院以後、ほぼ毎日、リハビリに通いました。それは、リハビリというより、拷問かと勘違いする位、つらい毎日でしたが、執刀医で主治医の石村雅男先生と理学療法士の方々の励ましで、リハビリ当初はわずかにしか曲がらなかった膝関節もリハビリ開始後6ヶ月目にはほぼ正座ができるようになり、1年目には、大好きなゴルフそしてスキーもできるようになり、今や何の後遺症もなく、過ごせております。入院期間中、平尾教授のご厚誼で、同門の諸先生方の診療応援により、診療所始まって以来の危機を脱せられたことに、こころより感謝しております。

8) の胃カメラについては、
 開業当初、患者さんのほぼ100%が泌尿器科でしたが、内科も標榜しておりますので、年月が経つにつれ、また開業医が少ないためか、いつの間にか、よろず科的な患者背景になってきました。ですから、勤務医のころは、すべて内科に任せていた糖尿病、高血圧、高脂血症、さらには小児の感染症などについても、にわかに勉強せざるを得なくなり、記憶力の低下に歯向い、大脳皮質に鞭を入れております。 そのような我が診療所の傾向ですので、以前より胃カメラの要望の方も強く、また、折よく友人の内視鏡医が近くの精神療養型病院に転勤して来られましたので、今年の1月より、胃カメラを導入しました。お陰といっては本末転倒ですが、当院の主力であるべき尿路の内視鏡件数を胃カメラ件数が超える勢いで増えており、改めて胃腸を患う方の多さを実感しております。

 開業当初、午後は確実に休息を取れることに喜びを感じ、生来の怠け者の自分にとって、ワクワクの日々でしたが、上にも書きましたように、精神療養型病院への応援、老舗診療所の突然の閉診に伴い三郷町の医師会代表を仰せ付かったこと、町立の老健施設の顧問医となったことなどで、リラックスタイムのはずの午後の数時間がほぼ毎曜日どこかへ走り回っている現状で、最近は、ストレスがたまっております。 大好きなゴルフもラウンド回数がめっきり減り、それに比例するようにスコアも悪くなり、元来、他力本来の性格ですので、目新しい道具を買っては、中古クラブ屋の往復で、家内の苦言も耳元に迫っております。
 若い頃は、豊富にあった髪の毛も、最近、雑木林状態で、平松先生の域まではまだ距離がありそうですが、洗髪するたびに、見られる脱毛の多さにビクビクしております。 また、すぐそこには還暦が待ち受けている年となってきましたが、まだまだ、元気に開業医として地元の医療に貢献させて頂きますので、今まで同様、同門の諸先生方のお力添えを賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

医療法人 小原クリニック 院長 小原 壮一



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